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村上被告に実刑判決−明らかになった村上ファンドのカラクリ

text by

小泉龍司

2007.07.24

 二ッポン放送株をめぐるインサイダー取引事件で、証券取引法違反に問われた村上ファンド前代表、村上世彰被告に対し、東京地裁は19日、懲役2年の実刑判決を言い渡した。昨年6月、村上前代表は記者会見で「ライブドア元社長の堀江貴文被告らから、ニッポン放送株の5%以上を買い集めることを決めた旨、聞いちゃったと言えば聞いちゃっているんですよね。」とインサイダー取引を認めていた。しかしその後の公判では、無罪主張に転じていた。

 今回の判決では、この無罪主張を退けるとともに、実際には、より巧妙なカラクリのインサイダー取引であったとの事実認定が行われた。すなわち、村上被告が受身でインサイダー情報を聞いたのではなく、逆に村上被告の側からライブドアに対し、ニッポン放送の『経営権を取れる』と甘言を用いて、大量取得を持ちかけたものであるとの判断が下された。つまり、村上被告がインサイダー取引を自ら仕組んだというわけである。

 実は、こうした巧妙なカラクリは、99年6月に村上ファンドが設立されて以降、急成長を遂げる過程でも、仕組まれてきた可能性があるということが指摘されている(森功著「サラリーマン政商・宮内義彦の光と影」(講談社))。それによれば、村上被告は、M&AコンサルティングとMACアセット社という、よく似た名前の2つの会社を使い分けて、ファンドの運用を行ってきた。株式市場における村上前代表のデビュー戦となった、電子部品メーカー「昭栄」株の公開買い付け(TOB)において、既に次のような巧妙なカラクリが存在した。まずMACアセット社が投資事業組合を立ち上げ、昭栄の株を先行取得しておく。そしてある程度株式を取得した段階で、今度はM&Aコンサルティングが昭栄株の公開買い付け(TOB)を発表する。

 TOBが公表されれば、株価は大幅に上昇し、先行取得していた投資事業組合は大きな利益を得ることになる。しかし、よく考えてみれば、この2つの会社は、ともに、村上被告のダミーのような存在であり、これらの会社の意思は、村上個人がすべて決定しているとの見方ができる。現に今回の判決でも、「分社化しながら、その実態としては、一体的にこれを支配し、ファンドマネージャーとしての活動とアクティビストとしての活動を一人で行っていたのであって、このような運営体制それ自体が本件を招来したという点が指摘できる。その意味で本件は、偶発的犯行ではなく、必然的なものである。」と述べている。

 これまでの村上ファンドによる、こうした工作は証取法の不備もあり、法律違反に問われてこなかったが、実態は今回のニッポン放送株に関するカラクリと同類型だったのではないか。これまでインサイダー取引については、執行猶予がつかない実刑判決はほとんど前例がなかったが、今回の判決は、必ずしも金融のプロではない裁判所がこうした悪質な犯罪行為の実態に切り込んだ、意義深い判決であると考えられる。

 こうした不正行為を厳しく取り締まり、証券市場から締め出さない限り、いくら個人投資家の育成を図る施策を講じても、個人投資家の取引シェアは、容易には上がらない。ただでさえ、情報力に劣る個人投資家は、常に証券市場で劣位に置かれているからだ。今回の事件で、村上ファンドがあげた巨額の利益は、「投資事業組合」に集まった、匿名の大口投資家に、既に分配されてしまい、原状回復の手段は講ずるべくもない。この利益は不特定多数の投資家の損失の上に得られたものである。第二第三の村上が出てくることを阻止しなければ、個人投資家は株式市場から離れるばかりである。

 そういう意味で、インサイダー取引の排除は、証券市場のインフラ整備として、極めて重要である。証券市場の自由化により、行政による事前規制型から司法による事後取り締まり型へとルールが変更される中、今回の判決は、この点でも大変重要な指針を示すものとなった。