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児童虐待問題を考える

text by

小泉龍司

2007.10.22

 先の通常国会において、児童虐待防止法の改正が行われ、来年4月に新制度がスタートする。
 前回の同法の改正時には、私も改正案の起草者となり、議員立法を行った。その時、与野党の意見が食い違い、合意を得られずに積み残しになっていた措置が、今回の改正に盛り込まれることになった。

 主な改正点は以下のとおりである。

  1. 児童虐待が行われているおそれがある、との通報があった場合には、児童相談所は48時間以内に児童の安否を確認しなければならない、という義務を負う(48時間ルール)。
    これは全国に先駆けて埼玉県が既に実施していたルールであり、これを全国に広げ、法律上の義務としたものである。
  2. 解錠を伴う立ち入り制度の導入
    児童の生命が危険にさらされているおそれがある時は、警察官立会いのもとに児童相談所職員が屋内に立ち入ることは、これまでも認められていたが、今後は、児童相談所は裁判所に令状を請求でき、令状があれば親はこれを拒否できない。
    これまで野党から、家庭に警察官が強制的に踏み込むことについて、慎重論が強く出ていたが、その後も重大な虐待事件が後を絶たず、今回認められることになったものである。
  3. その他、虐待した保護者が、児童相談所に保護された児童に、面会や通信を行うことへの制限の強化、保護者が指導に従わない場合の措置の明確化など、児童相談所の権限強化が図られた。

 わが国における児童虐待の相談件数は、年間3万7千件を超えており、その中で、虐待による児童の死亡事件も年々増加し、年間50件以上にのぼる(週に1件の割合)。2000年に、児童虐待防止法が導入・施行された時点の相談件数は約1万8千件であり、現在はその2倍の相談件数となっている。
 今回の改正は、このように急増する児童虐待の被害から、何とか子ども達を助け出したいという主旨で行われた改正であるが、軽度の虐待を減らしていくこと、更にはなぜ虐待が増えるのか、というところに遡り、その防止策をとるというところまでは踏み込むことができなかった。

 前回の同法改正時、私が強く主張したことは、軽度の虐待を減らすことが重大な虐待を抑止することに繋がるという点である。それを可能とするためには、現在の児童相談所のマンパワーは決定的に不足している。専門家も不足している。このことを中心課題として、早急に取り組む必要がある。
 虐待が増加する原因は複雑かつ多様であるが、核家族化し、また地域での人間関係が希薄化する中で、「親の子育て力」が低下してきている、ということが指摘されている。身近に相談できる人がいない状況の中で、孤独感を深め、親が正常な判断を失っていくケースも多い。
 一本の電話でも、短時間の面会でも、親の相談にのり、サポートすることができれば、親が立ち直るケースも少なくないと考えられる。
 イギリスでは、乳児養育中には、週2回程度、公的な育児・家事サポートが行われる。そこまで手厚くケアすることについては、異論があるかもしれないが、少なくともヨーロッパでは、「子どもを社会全体で育てる」という考え方が政策の基本となっている。そして、この考え方が少子化の歯止めにもなっている。

 わが国の場合、対処療法である今回の改正だけでは、児童虐待問題の解決には程遠い。
社会全体が「子育て」というものに公的価値を認めるべきか否か、という議論を、制度論の前に国会の場から国民に提起すべき時期にきている。
 この私の判断は、間違いではないと思う。