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世界同時株安と金融不安を生み出したものは何か?

text by

小泉龍司

2008.01.23

 日経平均株価が今年に入り、わずか3週間足らずの間に3000円あまり、この2日間だけで1300円近い大幅下落となった。東京だけではなく、ニューヨーク、ロンドン、上海、シンガポール等、世界各国の株式市場で、同時に株が暴落している。原油高とサブプライムローン問題による金融不安が、アメリカ経済をはじめ各国の実体経済に深刻な影響を及ぼしはじめていることがその背景にある。

 今回の世界同時株安は、現在のアメリカを中心とする市場原理主義の下での資本主義そのものが生み出した二つの矛盾が、直接の原因になっている。

原油高を生み出している投機マネーの問題。

 巨額の投機マネーが原油の需給均衡とはまったく無関係に、相場を吊り上げ、とどまるところを知らない。値上がりの「予想」が実際の値上がりを呼ぶという構造は、「マーケット」にはつき物だが、それでもどこかで、実際のその商品の需給の状況が相場に影響を与え、歯止めがかかるのが通常の姿である。

 しかし、今回の原油高は、実際の需給とはまったく無関係に上昇を続けている。世界の投機マネーが巨額なものとなり、ついに実体経済と主客が転倒してしまった。

 犬(実体経済の需給)がシッポ(マーケット)を振る(影響を与える)のではなく、シッポが犬を振る、すなわちマーケットが勝手に暴走し、実体経済がその影響を受けるという矛盾した姿が原油市場に現れた。

 「シッボが犬を振る」ことの根本的な問題は…これをコントロールできない、ということである。もともと実体がないのだから、捕まえて抑えることはできない。現代資本主義が誇りとするべき「マーケット」が生み出したこの矛盾に、世界経済が侵されはじめている。

もう一つの問題は「サブプライムローン」の問題。

 アメリカの低所得者向けの住宅ローンに大量の延滞や返済不能が生じ、これが原因となって欧米の金融機関に巨額の損失が生まれている。各金融機関は、懸命に資本補強を急いでいるが、予想をはるか超える損失が次第に明らかになり、欧米を中心として金融不安が拡大している。この問題には二つの背景がある。

 一つはアメリカにおける、低所得者向け住宅ローンの過熱である。はじめの数年は低利の固定金利から入るローンが開発され、当初返済額が小さいため融資が拡大した。住宅価格が上昇を続ける中で、金融機関も過剰な貸付けを行うようになり、返済不能の債務者からは住宅を取り上げ、利益を上げた。

 しかし一定期間経過後は、変動金利となり返済額は増加する。また他方で、住宅供給は過剰となり、住宅価格は下落を始め、低所得者の所得も増えない中、次第に返済が滞るローンが増加した。

 ただ、ここまでなら、機敏な対応策が取れたと思う。本当の問題は、その先にある。アメリカでは、この住宅ローン債権を数万本単位で信託にプールし、そこに流れ込む資金を引き当てとして、証券を発行して投資家に買ってもらい、資金調達する仕組み(証券化商品)が広く普及している。

 そうして発行された証券をまた束ねて信託にプールして、それを担保に証券を発行するということが幾層にもわたって行われている。そうやって元の住宅ローン債権から遠く離れて幾重にも仕組まれた金融商品の持つリスクを計算するためには、極めて複雑な確率論の計算が必要になる。

 顧客である投資家には、それがどういう計算なのか、その計算方法自体もわからない場合が多い。

 アメリカでは、90年代にアポロ計画が中止になり、NASAにいた物理学者が金融の世界に大量に流れ込み、複雑な金融工学を用いて、沢山の新商品を開発した。

 デリバティブ、金利・通貨スワップなどとともに、証券化商品も、そうして生み出された金融商品の一つである。金利の計算方法が数百ページの計算式によってなされる商品も珍しくはない。

 サブプライムローンの問題の本質はここにある。リスクがどこに、どのように広がっているのかは、一般の投資家には到底わからない中で、元の住宅ローンは次第に腐食している。金融システム全体がこのリスクに冒されていくこととなる。ここにも、間違いなく「コントロール不能」が生まれている。

 以上延べたように、現在の世界同時株安の原因となっているのは、一時的突発的な要因ではなく、「マーケット」に生じた、二つの「コントロール不能」…投機マネーそして高度の金融商品である。いわば、構造的な問題である。従って、仮に今回の株安が収束しても、再び同様の問題が起こるおそれがある。

 そして、それがまったく新しいタイプの世界恐慌へと拡大・波及していかないという保証はない。この二つの問題を跳ね返すには、もはやアメリカの経済と言えども、その厚みは十分なものではない。ブッシュ大統領が先日発表した、アメリカのGDPの1パーセントに及ぶ緊急経済対策が何の効果ももたらさなかったことが、このことを如実に物語っている。

 今求められているのは、各国が歩調を合わせた経済対策を取ることである。と同時に、自由主義経済の中心に位置する「マーケット」に内在する矛盾を解消する方策をなんとしても見つけ出し、実行することである。そこに早く着目しなければ、もとはと言えば、マーケット自身が作り出したその大きな波に、世界経済が飲み込まれしまうことも、ないとは誰にも言えないであろう。