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まだ国民が気づいていない、後期高齢者医療制度の本当の怖さ

text by

小泉龍司

2008.04.23

 本年4月から導入された後期高齢者医療制度の下、4月15日より年金からの保険料天引きが始まり、国民の同制度への批判が高まっている。
 また、息子等の扶養家族になっていた約200万人の高齢者の方が新たに、保険料納付義務を課されることとなり、高齢者の方の不安が増大している。
 加えて、後期高齢者医療制度の下では、公的負担(5割)、若い世代の負担(4割)とともに、高齢者の方の負担が1割と定められて、制度がスタートしたが、今後、医療給付の増加に伴い、必然的に高齢者の方の負担割合が増加するような仕組みになっている。
 こうした高齢者の負担が増加するという点については、制度の変更点も分りやすく国民の関心も高いため、マスコミや国会審議でも取り上げられてきているが、実は、後期高齢者医療制度の「本当の怖さ」は、医療給付の仕組みの方に隠されている。そのことに気づいている人は、現職の国会議員の中にもほとんどいないようだ。

 政府は、医療給付の面では、「今までとほとんど変わるところはありません」という趣旨の説明をしているが、医療給付面での変更点がなく、高齢者の負担増だけを狙ったものであれば、もっと目立たないように、こっそりと負担の引き上げだけを行ったはずだ。
 ぎょうぎょうしい名前を付けて、わざわざこの制度を75歳未満の方の医療保険制度と切り離す必要はなかったはずだ。では何故、制度を切り離したのか?他の制度から切り離し、高齢者について独立した制度を創設するということは、大きな給付面の変更、すなわち給付の削減を、そこに仕組むためではないのか…?自然な疑問が湧いてくる。しかしながら、マスコミの報道等に出てくるのは、負担増の批判ばかりである。
 私はこの疑問を明確かつ具体的に解明するために、厚生労働省のホームページを詳細に検討したが、給付面についての直接的な説明はない。しかし、多数の文献を当たり、やっとこの巧妙な仕組みを突き止めることができた。
 それは、「かかりつけ医としての登録」という新たな仕組みとそれと連動する「後期高齢者診療料」(包括支払い制度)という仕組みである。トリックは、日本の医療制度に初めて導入された、この2つの仕組みによって構成されている。
 表向きは「後期高齢者診療料」いう体裁の良いネーミングと、これらはあくまで選択制です、という言い訳が用意されているため、医療機関も患者も簡単にはこの巧妙なトリックを見抜くことはできない。

 細かい部分を省き、ポイントを述べる。

  1.  医療機関は、患者との合意の下、患者の「主病」(患者が抱える複数のの疾患のうち、最も重点的な治療が必要となる疾患)を治療する、主たる医療機関としての登録をすることができる(選択制)。この登録は、一人の患者ついて一つの医療機関のみ行うことができる。
  2.  次にこの登録をした医療機関に対しては、患者の容態にかかわらず、一律月6,000円の「後期高齢者診療料」の受診料としての給付が行われる。

 さて、何が問題なのか?

  1.  高齢者は複数の医療機関にかかるケースが多いが、それらの医療機関の中で一つでも上記の「主病を治す医療機関」としての登録がなされると、他の医療機関がその患者さんを治療しても、給付される医療費の金額は大きく減額される仕組みになった。
     となれば、必然的に医療機関による患者の奪い合いが起こるであろう。この登録はあくまで選択制であり、強制されたものではないが、他の医療機関に遅れをとると、医療給付が貰えなくなるため、医療機関は先を争い、患者の囲い込みを行おうとするであろう。
  2.  確かに患者の側にも選択権(上記の登録に合意しない)はある。もし、選択しなければ、(より厳密な検証が今後必要ではあるが…)厚労省の言うとおり、給付面では今までの制度と本質的な差異はないと考えられる。
  3.  しかしながら、医療機関の側から迫られれば、患者が拒絶することはむずかしい。医療機関の言うがままに、この「かかりつけ医の登録」とそれに伴う「後期高齢者診療料」を許諾してしまうことになるであろう。
  4.  さてこの選択をした、後期高齢者を待ち受けているのは、医療費に我が国で初めて天井(上限)を課す「包括払い制度」である。
     登録医のもとでの「後期高齢者診療料」を選択した場合、医療給付の上限は月6,000円である。それを超える治療や検査を医療機関は行ってくれない。
     こうして、高齢者に対する医療行為に対して上限が設けられることになる。

 これこそがおそろしく巧妙に隠された「後期高齢者医療制度」の真のねらいとそのための仕組みである。 必要な治療や検査については必ず給付を行う、という医療保険制度の「根本原則」が75歳以上の方を対象として崩されていくということである。

 日本の医療の質を変えてしまうほどの制度の「改悪」である。マスコミそして多くの国民に、早くこのことに気づいていて欲しいと思う。
 やがて、医療に上限を設けるこの方法(包括払い制度)は、より若い世代に対しても適用が拡大されていくおそれがないとは言えない。
 小泉内閣が、最後にこれだけはどうしても通したいとして、2年前の国会で強行採決で成立させた『医療制度「改革」法』。
 「改革」の本質がいよいよベールを脱ぎ、その歪んだ姿を国民の前に見せはじめた。