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洞爺湖サミットを終えて−解決策が見出だせない、世界経済・負の連鎖−

text by

小泉龍司

2008.07.11

 今年の洞爺湖サミットは、国際的な金融不安や原油・食糧価格の高騰など、複雑に重なり合う経済問題が、地球温暖化と並ぶ主要テーマとなった。しかし結局、具体的な解決策を見出だせないままに、閉幕となった。

 原油価格の高騰を招いた国際投機マネーの規制については、「先物市場の監視強化」が掲げられただけであり、結局、消費国の省エネと産油国への増産要請など、時間がかかる中長期的対策しか打ち出せなかった。また食糧価格の高騰についても、各国の食糧備蓄の放出や食糧輸出規制の撤廃などの当面の対策が掲げられたが、「焼石に水」。抜本的な食糧増産体制、バイオ燃料問題など、本質的な問題は手つかずのまま残された。米国のサブプライムローン問題に伴う金融市場の混乱・金融不安についても、打つ手はなく、「深刻な緊張が依然存在している」との懸念を表明するにとどまった。

 この一年、世界経済は、金融不安→原油価格高騰→食糧価格の高騰へと推移してきた。米国のサブプライムローン問題に伴う国際的な金融不安により、国際投機マネーが金融市場から原油市場に流れ込み、原油価格が高騰⇒バイオ燃料の生産に拍車がかかり⇒原料となるトウモロコシなどの需要増から価格高騰⇒食糧価格全体に波及。

 確かにその背景の一つとなっているのは、新興国の急速な経済成長である。新興国の代表である中国とインドの人口は、世界人口の約4割、約25億人に達している。これらの国々が大量消費型経済に移行しつつあることが原油価格の高騰の遠因になっていることは、否定できない。

 しかしながら、1バレル140円を突破して上昇を続ける原油価格を、現時点で現実に突き動かしているのは、金融市場から逃避してきた国際投機マネーである。世界の原油価格の指標となっているのは、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油の先物取引である。 ニューヨーク取引所で取引される実際の原油量は、全米で消費される原油量のわずか2パーセントしかないが、この「NY原油」の先物価格が「投機」の対象となっている。その結果、原油価格は実際の需給とは無関係に上昇を続けている。世界の投機マネーは巨額なものとなり、実体経済の需給関係と主客が転倒してしまったのである。犬(実体経済の需給関係)がシッポ(マーケット)を振る(影響を与える)のではなく、シッポが犬を振る事態になっている。すなわちマーケットが勝手に暴走し、実体経済がその深刻な影響を受けるという、矛盾した事態が原油市場に起こり、その矛盾に世界経済が揺れ動いている。

 さらに、原油価格の高騰は、バイオ燃料への需要を増大させ、その原料となるトウモロコシなどの価格の上昇と、さらには投機を呼び、食糧価格も高騰することとなった。

 こうした資源価格の高騰がインフ懸念を招き⇒その結果としての企業業績低迷予想から⇒世界同時株安が進行している。⇒そして資金は原油などの資源マーケットへさらに逃避するという悪循環が始まっているのだ。これが全く新しいタイプの世界恐慌に拡大していかないという保証は、どこにもない。

 また最も憂慮するべきは、この食料の高騰が真っ先に、世界の最も貧しい人々(日々の生活に苦しむ10億人以上の人々)を直撃しているということである。国際投機マネーの監視を行うことについては、国際的な機運が高まってきたが、現実的にこれをコントロールする具体的方法は見つかっていない。まさに「制御不能」なのである。また、「世界同時株安と金融不安を生み出したものは何か?」(08.1.23)で述べたとおり、サブプライムローン問題の本質は、複雑な金融工学によって仕組まれた米国の「証券化商品」が、そこに含まれるリスクをコントロールできなくなったこと(制御不能)にある。

 現代資本主義が誇りとするマーケットに内在する、この二つの「制御不能」、すなわち、複雑な金融新商品と投機マネーが、資本主義の新たな構造問題を生み出し、グローバルな困難を我々の前に突きつけている。「市場」を信奉し、それに世界経済を委ねることの怖さを、現実に経験しつつあることを、我々は明確に認識するべきである。これらは構造問題であるが故に、現時点の延長線上に解決策を見つけようとしても、答は見つからない。

 洞爺湖サミットで結論が出せなかったことは、如実にそのことを物語っている。新しい視点、すなわち現代資本主義=アメリカ型資本主義の在り方そのものを根本的に問い直す視点に立たない限り、世界経済の負の連鎖を断ち切る方策は見つからないであろう。そうした意味で、我々そして世界経済は、間違いなく今、大きな岐路に立たされていると、私は考えている。