文字サイズ: 小 中 大

名ばかり管理職−労働規制の抜け道・無制限の残業と残業代ゼロ−

text by

小泉龍司

2008.07.18

 労働者の権利を守る基本法が労働基準法である。同法により、労働時間の制限、残業に対し割り増し手当てを支払う義務などが経営者に課せられている。労働基準法で定められている「法定労働時間」=労働時間の上限は、1日8時間、週40時間、休日は4週に4日である。これを超える残業を労働者に命ずる場合には、労使間で合意し、協定を結ぶ必要がある(労働基準法36条に基づく、いわゆる三六協定)と定められている。

 こうした労働者の基本的な権利を守る労働基準法の例外措置(労働時間の規制や残業代支払い義務が摘用されない対象者)とされているのが、「管理監督者」である。「管理監督者」は社会通念上の「管理職」とは異なる。「管理職」よりは狭い概念である。
 通常「課長」に昇進すれば、社会通念上は「管理職」になったと見なされるが、彼らは、労働基準法上の「管理監督者」ではない。「管理監督者」とは、(1) 出退勤の自由度が高い、(2) 経営者と一体的立場にある、(3) 賃金面で一般の従業員より高い処遇を受けている、などの条件を満たす労働者であり、「一般的には部長・工場長など、労働条件の決定その他労働管理について経営者と一体的な立場にある者」(解釈通達)とされている。
 こうしたごく限られた対象者については、言わば経営者側に立つ者として労働基準法上の「保護」の対象から外したのである。

 しかしながら、誰が考え出したのか、この例外措置を法規制の「抜け道」として悪用し、労働者に過酷な残業を課し、しかもその残業代を支払わない企業(業界)が現れた。外食チェーン(マクドナルドなど)、コンビニチェーン(ショップ99など)、紳士服販売チェーン(コナカなど)である。
 これらの業界では、正社員の部下が一人もいないような店でも、「店長」は「管理監督者」であるとされ、月100時間を超えるような過酷な残業を強いられるとともに、残業代は一切支払われないというケースが常態化してきた。労働時間の延長と人件費抑制の手段として「管理監督者」(例外措置)が法の「抜け道」として悪用されてきたのだ。

 東京地裁は、本年1月、マクドナルド店長の高野広志さんの訴えに対し、「店長」は「管理監督者」に当たらないとの判決を下した。同社は判決を不服として控訴したが、セブンイレブンジャパンがこの判決を受けて、本年3月から店長に残業代を支払うことを決め、マクドナルドも5月に店長への残業代支払いを表明し、ショップ99も6月に残業代の支払いを始めることを明らかにするなど、「マクドナルド訴訟判決」の波紋は広がっている。

 こうした名称だけは管理職だが、実態はアルバイト店員と何ら変わらない、「名ばかり管理職」の問題には、伏線があった。それが昨年問題になった「ホワイトカラー・エグゼンプション法案」である。
 各方面の反対で廃棄になったこの法案は、「管理監督者」以外の労働者であっても、一定以上の収入がある労働者については、労働時間規制と残業代支払い義務を外し、無制限の残業と残業代ゼロを認めようとするものであった。
 言わば事実上「名ばかり管理職」を法的に認めた上に、さらにその範囲を拡大しようとするものであったと言ってよい。

 労働者の権利を守るべき国が、チェーン店で常態化してきた「名ばかり管理職」の過酷な労働環境(残業時間100時間以上・手取り月額約20万円と少し・・・先のショップ99の例)を知りながら、これを法制化、さらにその範囲を拡大しようとしているのだ。
 自由競争の中で、経営者は、いつから良心を失ったのか?
 政府はいつからこれを是認するようになったのか?
 「マクドナルド訴訟」のように、(当事者の提訴を受けてという形で、あくまで受け身である)「司法」の判断のみが、こうした現状の救済策として機能している事態は、異常である。

 一日も早く、国による徹底した是正措置が求められる。