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明らかになった厚生労働省の「失政」−地方の医療崩壊をもたらした「新臨床研修制度」−

text by

小泉龍司

2008.09.10

 地方における急激な医師不足をもたらした原因は、2004年に、厚生労働省が導入した「新臨床研修制度」であったことが、先日公表された日本医師会の調査により明らかになった。
 新人医師は2年間の研修を行うことが義務づけられており、これまでは、医学部を卒業し国家試験をパスした新人医師は、大学病院の医局に配属され、研修を行いながら一定の「戦力」として、大学病院を支える役割を担ってきた。しかしながら、厚生労働省は、2004年度以降、新人医師研修を大学・医局の人事権から外し、研修医が自由に研修先の病院を選べる「新臨床研修制度」を導入した。
 一見進歩的に見えるこの新研修制度の導入により、これまで維持されてきた地方病院への医師派遣のシステムは大きく崩れ、2004年度以降、地方における医師不足が一気に進むこととなった。
研修制度が自由化された後、新人医師は大学病院を離れ、より待遇の良い大都市の病院へとシフトしていった。大学病院はたちまち人手不足に陥り、医師会による調査に回答を寄せた1,024の大学病院医局のうち、実に77%の医局が、大学から地方病院への医師派遣数を減らし、あるいは派遣そのものを止め、医師を大学病院に引き揚げた。大学医局が医師を引き揚げた地方病院の数は3,003病院に上り、このうち、45%が診療時間の短縮や入院病棟の閉鎖に追い込まれ、さらに17%の病院では、診療科を閉鎖せざるを得なくなった。因みに、医師引き揚げの比率が相対的に高いのは、産婦人科、内科、リハビリテーション科の順である。
 そもそも医師数全体の増加を抑制する中で、大都市への医師の偏在をもたらすような仕組みを導入すれば、必然的に地方における医師不足が進み、地方における「医療崩壊」がもたらされるということを、厚生労働省は当然、予知できたはずである。それとも、地方病院に医師が派遣されてきた仕組みを知らなかったのだろうか?いや、そんなはずはない。だとすれば…地方における中小病院の減少を見越し、むしろ(医療費削減のために)それを意図して、新研修医制度が導入されたと考えざるを得ない。
その後、地方での医療崩壊が明らかになってきてからも、厚生労働省は自ら実態調査を行うこともなく、今日まで「新臨床研修制度」が継続されてきている事態を踏まえると、その可能性が極めて高い。
 あまりにも、財政論理優先、「現場」無視の政策判断である。
 医療崩壊の犠牲となり、また今も犠牲となり続けている地方の多くの患者さんの生命とその家族の苦しみに、厚生労働省はどう応え、どう責任を負うのか?
こうした明らかな医療行政の劣化を止められない、政府与党の責任も、極めて大きなものがある。