文字サイズ: 小 中 大

「不純な動機」(貧困ビジネス)がもたらした世界金融危機

text by

小泉龍司

2008.11.05

 2008年「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞した堤未香さん著「貧困大国アメリカ」は実に多くの示唆を与えてくれる名著である。是非一度皆様方にもお読み頂きたいが、その名著の冒頭にサブプライムローンの犠牲となった移民のマリオ・フェルナンデス夫妻の話が出てくる。

 マリオのような移民にとって、この国で家を持つというアメリカン・ドリーム。到底手が届かないはずの夢。ある日突然、マリオの家を訪れた若い男は「自分は弱者の味方だ」と言い、その夢はかなえられるという。「あなた方が国境を越えてやってきたアメリカという国は、不可能を可能にする場所なんですよ」。それは、2年前に自己破産しており、クレジットカードは持ったことがないマリオの頬を紅潮させた。
 「住宅価格は上がり続けますから」
 機械工であるマリオの月収は、貧困ライン(4人家族の世帯で2万ドル=約200万円以下の所得)ギリギリだったが、何故かそれはまったく問題にならなかった。すぐに50万ドル=約5,000万円の融資が下りた。
 だが、月310ドル=約31万円のローン返済を続けるためには、マリオと妻マリア、それに3人の息子たちがフルタイムで働いた収入のほとんどは返済に回り、生活はひどくなる一方だった。
 生活は一変してほとんど返済のためだけに働くようになってしまった。
 払いきれない分はそっくり元本に組み入れられ、返済が雪だるま式に増えていたことに気づいた時にはもう手遅れだった。差し押さえを受け、家を追われて、マイホームを持つというマリオの夢は崩れ去り、後には膨大な借金だけが残った。
 アメリカの住宅ブームが勢いを失い始めた時、業者が目をつけたターゲットは、国内に増え続ける不法移民と低所得者層であった。「サブプライムローン問題」は、単なる金融の話ではなく、過激な市場原理主義が経済的「弱者」を食い物にした「貧困ビジネス」の一つだ。
 アメリカで中産階級の消費率が飽和状態になった時、ビジネスが次のターゲットとして低所得者層を狙ったシステムである「サブプライムローン」。
 連邦政府のデータ(2005年)によると、同年、アフリカ系アメリカ人の55パーセント、ヒスパニック系の46パーセントがサブプライムローンを組んでいる。白人はわずか17パーセントだ。
(以上抜粋)

 今、世界を揺るがせている金融危機の発火点は、弱者を狙い食い物にして膨大な借金を負わせ、低所得者層を借金返済のためだけの人生に転落させていく「貧困ビジネス」なのだ。
 そのことを一人でも多くの人に知ってもらいたい。 市場原理主義の本質がそこに垣間見えるからだ。
 価値を生み出すのではなく、「他者の富を奪う」という「不純な動機」に導かれた市場原理主義の破綻。 金融危機の、まぎれもない「実像」を我々は決して見過ごしてはならないし、許してはならない。