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ハリケーン・カトリーナ(2005年)から始まっていた「change」-オバマ米国大統領の誕生-

text by

小泉龍司

2008.11.07

 11月4日、予想を上回る圧勝で、民主党バラク・オバマ上院議員が、米大統領選挙に勝利し、米国初の黒人大統領が誕生することとなった。
 民主党内の指名争いでは、最終盤までヒラリー・クリントン上院議員と大接戦を演じたが、対共和党のマケイン候補との本選挙では、常にリードを保ち、この優位さをさらに固めつつ、あっさりと大差で勝利した。
 オバマ氏は本選挙最終日の演説で、「2年近く前の冬のまっただ中、イリノイ州スプリングフィールドの旧州議会議事堂で、この旅を始めた。資金も支持者も多くはなかったが、米国民が新しい指導者、新しい政治に飢えていることを確信した。」と述べている。
 2年前からはじまっていた・・・。
 しかし、そのオバマ氏を大統領選挙出馬へと突き動かした政治の流れ、そして米国における民主党への政権交代への底流は、3年前の夏、米国南部を襲った、戦後最大級のハリケーン「カトリーナ」により、もたらされたものである。
 カトリーナがもたらしたものは、ジャズで知られるルイジアナ州ニューオリンズの町の崩壊と多くの貧しい人々の犠牲であり、その過程を通じて明らかになったことはブッシュ政権による「内政」の崩壊であった。
 カトリーナは、今も被災地に取り残された多くの貧しい人々と、「政権交代」の流れを米国民の心に残して去って行った。
 2001年ブッシュ政権は、公的な災害対策と予算措置を伴う災害対策プログラムを廃止し、およそ2億ドルを節約すると主張して、民間会社に災害対策を「丸投げ」することを決定した。災害予防対策の「民営化」である。
 他方で、ルイジアナ州から要請された堤防の保守と建設の予算は削減され、ついに防波堤は未完成のまま、カトリーナを迎え、ニューオリンズの町の80パーセントは水の底に沈んだ。
 「国民の生命にかかわる問題(災害対策)まで民営化してはいけない。なぜなら民間企業は利益をあげることを一番に考えるからだ」と多くの専門家が警鐘を鳴らしたが、結局この指摘は現実のものとなってしまった。
 またブッシュ政権中枢は、カトリーナ上陸前のテレビ報道でニューオリンズを脱出する車の列を見て安心して避難対策を怠った。
 多くの貧困層は車を種所有していないことを知らなかったというのだ。
 被害者に緊急手当て2000ドルを振り込んだが多くの貧困層は、(口座維持手数料が高すぎて)銀行口座も持っていないため、その手当てを受け取れないという失態も演じた。
 被災者を守るべきイリノイ州の州兵5700人の半数以上3200人は、イラクへ派遣されていた。
 こうした事実が次々と明らかになり、ブッシュ政権の内政への信認が崩れ去った3年前の夏、海を隔てた日本では「郵政選挙」が行われていた。
 貧しい人々を置き去りにする「効率一辺倒」の政治の嵐が吹き荒れた日本と、その政治がもたらす「現実」に、人々を引き戻すカトリーナの暴風雨が吹き荒れたアメリカ。

 3年前の夏に始まっていたのだ。
 新しい政治の流れが。
 オバマの言葉「change」。
 何を変えるべきか、皆様もすでにお気づきのことと思う。