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かつての「新自由主義」派のエコノミスト・中谷巌氏の正直な懺悔(週刊朝日1/23号)

text by

小泉龍司

2009.01.19

 週刊朝日の1月13日号に掲載された『「改革」が日本を不幸にした』(中谷氏へのインタビュー記事)は注目に値する記事である。元一橋大学教授・中谷巌氏は小泉政権時代には、規制緩和の旗振り役をつとめてきた著名なエコノミストである。
 氏曰く、『私は「日本はおかしくなってきているのではないか」という気持ちがだんだん強くなり、「改革」に疑念を持ち始めた。かつて私は、米国ハーバード大学に留学し、アメリカかぶれになって帰国した。あらゆる経済活動を市場に委ねることが、経済を発展させ幸福な社会をつくるという「新自由主義」を信じて、構造改革の片棒をかついできた。しかし、いわゆる「グローバル資本主義(米国型・金融資本主義)」がもたらしたものは、今回の金融危機であり、加速度的な環境破壊であり、急激な貧困層の増大であった。日本では、実に4世帯に1世帯が年収200万円以下の貧困層であり、OECDのリポートによれば、主要先進国で米国に次ぐ第2位の「貧困大国」である。十分な税源移譲もなされないまま、一方的に地方交付税や公共事業が削減され、地方経済は壊滅的な状態にある。人と人のつながりは希薄になり、苦しんでいる人たちに投げかけられるのは、「自己責任」という冷たい言葉である。グローバル資本主義の「本質」を一言で言えば、エリート層に都合のいい、大衆支配や搾取のツールである。』(要旨)

 新自由主義派の論客であった中谷氏の立場に立てば、こうした「反省の弁」を述べることは、本当に勇気のいることであると思う。その率直で正直な姿勢を評価したい。
 多くのエコノミスト、官僚そして政治家は、中谷氏と同じように若い頃アメリカに留学し、氏も述べているように「アメリカにかぶれて」帰ってくる。短期間、大学の構内で過ごしても、貧困と格差によって分断されたアメリカ国民の真の姿を見ることはできないからである。
 そしてアメリカ留学を経験したほんの一握りの人達により、アメリカの経済システムが一種のイデオロギーとして、日本に持ち込まれた。それが小泉政権以降の「構造改革」である。
 それにしても、中谷氏はよく見抜いたと思う。そのイデオロギーは、エリート層(政権を握る者を含め強者)にとって、大衆支配や搾取を正当化するツールであるということを。正当化のツールとは、どういうことか?
 小泉政権下の2004年、派遣業務が製造業にも解禁され、その犠牲となって派遣切りの対象となり、年末年始を「年越し派遣村」で過ごすことになっても、それは「自由競争」の末の「自己責任」であり、決して「強者」(企業や株主・投資家そして政府)の責任ではない、ということになるからである。
 「構造改革」は、いかに冷たいイデオロギーであるか。強者にとって都合のいいイデオロギーであるか。中谷氏が指摘するとおりである。