文字サイズ: 小 中 大

「総合規制改革会議」-非正規雇用を正当化する冷たい論理…今必要な「共感」の力-

text by

小泉龍司

2009.02.03

 久し振りに日曜日(2/1)午前中のスケジュールが空いたので、テレビ朝日・サンデープロジェクトを見た。非正規雇用(派遣切り)の問題について、識者が議論を交わしていたが、改めて驚いた場面が3回あった。

(1)奥谷禮子氏の発言

 『派遣切りは、企業にとってコスト削減のため当然の手段であり、仕方のないことである。もともとそういう条件に合意して就業しているのだから。』
 奥谷氏は人材派遣会社ザ・アール社長であり、2002年に、小泉内閣に製造業についての派遣解禁などを提言した「規制改革の推進に関する2次答申-経済活性化のために重点的に推進すべき改革」を提出(実施は2004年)した、諮問機関「総合規制改革会議」(宮内義彦議長)の委員を務めた人物である。
 問題は2つある。

  1. 奥谷氏の発言によれば、派遣業務の製造業への解禁を推進した「総合規制改革会議」は、派遣を企業のコスト削減の手段として明確に位置付けていた、ということになる。 
     派遣を正当化する理由として、多様な就業形態を求める就業者のニーズに応える、という論理が賛成派の人々により用いられてきているが、実は、「総合規制改革会議」の本音は、企業の労働コストの削減にあった、ということが、図らずも明らかになった場面であった。
  2. 奥谷氏は、自らが人材派遣会社を経営し利潤を得る経営者である。
     その人材派遣会社の経営者自らが、政府の最高レベルの諮問機関の委員になり、派遣業務の拡大を推進する姿は、あまりにも不公正であり非民主的である。相撲取りが土俵で、同時に行司を務めるようなものである。
     公正なルールを決めるべき政府の諮問機関の委員に、そこから利益を得る当事者を任命した小泉政権。これほど不公正な政策決定の仕組みはない。そんなことがまかり通っていたのだ。はじめから公正な議論を望むべくもない。
     因みに奥谷禮子氏は、週刊東洋経済・2007年1月13日号で、「格差社会と言いますが格差なんて当然出てきます。仕方ないでしょう。能力には差があるのだから」と発言し、インターネット上などで批判を浴びた。派遣切りに苦しむ人達と派遣業務でもうける経営者の「格差」は能力の差だから仕方がない・・・と公然と言い切ることが、日本の社会をいかに醜く変質させていくか。奥谷氏は理解できないのであろう。

(2)奥谷禮子氏への質問と回答

 司会の田原総一郎氏が、企業が派遣会社に、例えば時給1800円分の賃金を支払っても、労働者に派遣労働者には1200円しか支払わないのは、問題ではないかと問うと、奥谷氏は「その差額600円の内には、雇用保険料支払いや有給休暇の負担分がある」旨の発言を行った。
 しかし、そうした負担分の金額は、1800円という全体から見ればごくわずかな金額であり、もし労働者が直接雇用されれば、手取り額は1200円よりは相当多くなることは明らかである。派遣元が手にする大きな利幅は、かつて法律が禁じていた弱い立場の労働者からの不当な中間搾取ではない、と言い切ることは、客観的に見て難しい。

(3)コメンテイターの財部誠一氏の発言

 「ある自動車メーカーに行き実態を見てきたが、ある期間工は年収500万円、会社の寮は月1万円。解雇されてポケットに数百円しかないというのは、マスコミがでっちあげたものだ」と発言。
 「期間工」というのは、自動車メーカーと直接雇用関係にあるれっきとした正社員であり、派遣社員ではない。「期間工」も本来期限の定めなき雇用に移行すべきであるが、明らかに派遣社員とは、待遇が異なる。財部氏も、そういう差異を知らないはずはないだろう。にもかかわらず、「期間工」の実態をもって、「非正規雇用」の実態であると、テレビの前で論ずることは、財部氏にしては珍しく客観性に欠ける。悔しい思いをした方が大勢いたと思う。


 私が信頼する公的機関の方に聞いた実際の話であるが、派遣社員を100人以上雇いながら、年収4,000万円を超える経営者のケース。派遣社員の管轄が「人事課」ではなく「用途係(購買部)」で行われているケース。すなわち派遣社員が「人」ではなく「物」として扱われている例など、理不尽な実態は枚挙にいとまがない。
 「識者」は、まずそういう実態をこそ把握し認識しなければ非正規雇用労働者を救うことはできない。

 今必要なことは、非正規雇用労働者に頼った経済の恩恵を受けてきた人たちが、失業者たちの身の上に、何が起こっているかを知ろうと努めることである。その「共感」の力こそが、日本の社会を再生していくためには、どうしても必要である。その力を失った人たちが、「経済効率」のみを論ずる姿を目の当たりにして、改めて深い危惧の念を抱くものである。でき得れば、個人の批判はしたくない。しかし、あえて以上の指摘を行ったのは、こうしたことを見過ごすことは、結果として社会の変質に加担することに繋がると考えたからである。

 次回のサンデープロジェクトでは、不安定雇用の元凶となった「登録型派遣」が、労働者派遣法制定時に極めて巧妙に書き込まれた経緯を放映するとのことである。
 時間のある方は是非ご覧頂き、この問題について、さらに一緒に考えていきたい。