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株安と景気悪化の連鎖を断ち切る方策を ―東証一時バブル後最安値―

text by

小泉龍司

2009.02.28

(1)2月24日、東京株式市場で日経平均株価が一時、バブル経済崩壊後の最安値(7162円90銭)を割り込んだ。
 米国から始まった株安がアジア市場に波及し、依然底値が見えない状況が続いている。
 昨年のリーマン・ショック後の株価急落により、昨年末までに、日本の大手銀行6グループが抱えた保有株関連の損失は、約1兆円に達している。銀行の損失は、今後株価の下落とともに、さらに増大すると見られており、この3月期に大手各行が赤字に転落するおそれもある。
 株価の大幅な下落は、銀行の資産内容を悪化させ、銀行の「貸し渋り」「貸しはがし」を通じて、企業に大きなダメージを与えることになる。銀行からの融資が細った企業は、雇用削減や賃金カットを行い、家計にダメージを与えることにより、景気はさらに悪化し一層の株安をもたらす、という悪循環に陥ることが、今強く懸念される。

(2)1929年のニューヨーク株式市場の株価大暴落に端を発する世界恐慌はまさに、この悪循環の中から生まれたものである。
 当時、ニューヨーク株式市場は、株価上昇を前提とした信用取引によりバブル相場の様相を呈していた。25ドルの証拠金を証券会社に支払えば、100ドルの株を買えるという「信用取引」により、膨大な資金が株式市場に流入し、株価は上昇を続けていた。しかし、実体経済の成長とは無関係の株価上昇は、いつか必ず限界に突き当たることになる。
 1929年10月24日(木曜日)10時25分、ゼネラルモーターズの株価が80セント下落したことが、(第2次世界大戦にまで繋がっていく)世界大恐慌の始まりであった。この下げの直後から売り注文が急速に膨れあがり、株価の急落が始まった。翌金曜日には、JPモルガンなど財閥系の主要銀行が、市場の不安を払拭するために、相場より高値で大量の買い注文を出し、この日は一旦市場は落ち着きを取り戻したかに見えたが、不安にかられた証券会社が、信用取引の証拠金の積み増しを投資家に要求したため、翌週明け、これに応じられない投資家の投げ売りが一挙に始まり、株価は底の見えない暴落へと進んでいった。
 銀行は、保有株の下落により大きな損失をこうむったため、企業に対する融資が打ち切られ、本来存続できる黒字企業までが資金繰りに窮して次々と倒産していった。また銀行経営の悪化は、預金者の銀行不信を招き、銀行預金の一斉引き下ろし(取りつけ)が各地で起こり、全米で約3000の銀行が倒産することとなった。
 当時、預金保険制度は整備されていなかったため、銀行の倒産により、多額の預金が失われた。

(3)こうした大恐慌の教訓を踏まえて、その後、アメリカでは証券会社や銀行に対する監督・規制が整備され、こうした「将棋倒し」(負の連鎖)を断ち切る手立てが整えられてきたが、80年代以降、アメリカ発の新自由主義の下で、こうした規制は、市場の活力を削ぐとの理由で次々と撤廃されてきた。
 その結果、規制が及ばない投機マネーが膨れ上がり、また内容がよくわからない新金融商品がたくさん生み出され、ついには、誰も市場をコントロールすることができなくなって、再び今日の金融危機を招くこととなった。大恐慌の教訓がいつしか忘れ去られてしまった結果なのである。
 (考えるー08年1月23日:「世界同時株安と金融不安を生み出したものは何か」→「もう一つの問題はサブプライムローンの問題」の節をご参照下さい。)

(4)そして、現時点における最も深刻な問題の一つは、アメリカの監督当局が不良債権を含む、銀行の財務体質の悪化の状況を、正確に把握できていないという点である。
まさに、規制緩和を進めすぎた結果、監督当局が銀行の経営状況すら把握できないところまで来てしまったのが、アメリカの現状である。
 銀行の不良資産を銀行から切り離すことが、上記の悪循環を食い止めるためには、不可欠の措置であるにもかかわらず、アメリカでは、その前提となる銀行経営の実態すら把握できていないのだ。
 我が国においては、バブル崩壊後、金融庁の検査により、不良資産を厳格に分類し、国が関与する整理回収機構により、不良債権の切り離しが行われてきた。また、政府により銀行の保有株式の買い取りも行われてきた。
 まず、米国は早急に、銀行の資産内容の把握に全力をあげる必要がある。金融危機の震源地において、そうした取り組みが行われなければ、金融危機を終息させることはできない。

(5)我が国では、株価下落対策として、日銀が2月23日以降、1兆円を上限として、銀行保有株式の買い取りを再開した。政府も、「銀行等保有株式取得機構」を通じて、銀行保有株式の買い取りを行うための措置を盛り込んだ法案を国会に提出している。これらの措置の効果が出てくるのは、これからであるが、株式市場の動向を注意深くウオッチしつつ、追加的措置も周到に準備しておく必要がある。
 なぜなら、今、日本の金融機関は、連鎖倒産するような状況にはないが、今回の危機の大元となったアメリカが、未だ先に述べたような状況にあるため、一時も気を緩めることはできないからである。