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療養病床の「6割削減」を政府が断念―現場を見ない医療行政の問題点―

text by

小泉龍司

2009.03.13

(1)今からちょうど3年前の2006年2月に、厚生労働省は、全体で38万床ある「療養病床(長期入院施設)」を6割削減し、15万病床とすることを目標とする旨を発表した。
 医療法では、病院の病床は、[1] 精神病床(約35万床) [2] 結核病床(約1.6万床) [3] 感染病床(1800床) [4] 一般病床(約91万床)そして [5] 療養病床(約38万床)の5つに分類されている。

(2)このうち「療養病床」とは、長期にわたる療養を必要とする患者を入院させるための病床であり、医療保険が適用される医療療養病床(約25万床)と介護保険が適用される介護療養病床(約13万床)に分かれている。ただしいずれも、提供される医療サービスは実質的に同じである。

(3)政府が06年に発表した目標は、目標年度:2012年までに、介護療養病床(13万床)を全廃するとともに、医療療養病床(25万床)を15万床に削減することにより、全体として療養病床を、38万床(現在)→15万床へ、23万床=6割も削減とするものであった。
 その代替措置として、平均的な費用額が小さい老人保健施設(27万床)、特別養護老人ホーム(30万床)を増設することを予定していたが、この受け皿となる施設の整備が進まず、昨年度の調査により、各都道府県が積み上げた、必要な医療療養病床は22万床に達することが明らかになった。
 既に、これまでの削減方針見直しにより削減対象から外された、回復期リハビリ病床(約3万床)と合わせ、今回、厚生労働省は、医療療養病床の数は現在の25万床を維持することを明らかにした。

(4)この療養病床の削減計画については、当初より「医療の現場」を無視する無謀な計画であるとの批判や懸念が、関係者から強く出されていた。
共働き世代の増加により、在宅ケアの余裕のある世帯は少なく、他方、介護職員の人材難(介護報酬が切り下げられてきたことが原因)、看護職員の不足により、既存の老人保健施設の運営すら困難になる中で、新たな受け皿施設の整備は、依然として進んでいない。
 昨年度の各都道府県による実態調査により、そのことが客観的に明らかになり、ようやく今回の見直しが行われることとなったが、そもそも「医療の現場」の実態をきちんと把握していれば、こうした目標を掲げること自体、大きな無理があったことは明らかである。

(5)「現場」を見ない医療行政の典型であり、今回の見直しは、その当然の帰結である。
 しかしながらなおそれでも、全体としては38万床→25万床へ、13万床の療養病床が削減される予定である。
 そのために必要な老人保健施設等の整備が、今後本当に進むのか?
 「行き場のない患者」を見捨てるようなことが起こらないよう、なお引き続き、「現場の実態」を厳しく見つめていく必要がある。