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最低限の生活に1,345円(時給)必要 ―首都圏の20代男性―

text by

小泉龍司

2009.05.07

(1)労働問題のシンクタンクである労働運動総合研究所は、「最低限の生活費」は実際いくらなのかを9つの世代モデル毎に試算して公表した。
 長い間、我が国には存在しないとされてきた「貧困」は、今や多くの国民が直面する現実の問題となり、日本社会の根幹を揺るがす深刻な問題になってきた。
 しかしながら、我が国の政治・行政は、これまで長い間、「貧困」という問題を正面から捉えようとはせず、あくまで例外的な問題としてしか扱ってこなかった。

(2)その結果、次のような問題が生れている。

  1. 行政分野毎に扶助が必要となる「貧困」の概念があいまいであり、基準がバラバラである。
     生活保護の基準、最低賃金の水準、基礎年金の水準、課税最低限などの水準がそれぞれ勝手に決められ、それぞれの基準の間に矛盾が生じている。
  2. それは、政治・行政が貧困者の生活実態を客観的に把握していないことに帰因している。

 憲法に定める「健康で文化的な最低限度の生活」の水準はどこにあるのかを決定する権限は、政治・行政が握っているにもかかわらず、貧困者の生活実態を把握しようとしていない。
 今後、早急に政治・行政がこれらの問題に正面から取り組み、各行政分野が一体的となって、「反貧困対策」を実行していくことが強く求められる。

(3)今回の調査は、こうした問題意識の下に行われたものであり、最低限度、保障されるべき生活費がいくらであるのかを、社会的な生活実態と価格調査に基づいて算定したものである。算定の方法としては、マーケット・バスケット方式(最低限の必要な財・サービスを積み上げる方式)を採用し、それにそれらの財・サービスの価格調査を組み合わせることにより、9つの世帯パターン毎に算定が行われた。
 「財・サービス」の積み上げに当たっては、「生活実態調査」や「持ち物調査」が行われた。例えば、家具、家事用品、衣服、テレビなどの教養・娯楽・耐久財・理容・美容・身の回り用品などは、「持ち物調査」に基づいて「原則7割以上の人が保有している物は、人前で恥をかかないでいられるために、最低限必要な必需品である」と判定される。
 また、より具体的な例をあげれば、「理美容サービス」の場合、成人男性については、1回4000円、中学男子1回3000円、小学女子は1回2500円で、2か月に1回の利用として算定されている。

(4)調査の結果は、20代男性・単身世帯では、食費3万9564円、教養娯楽費1万8273円などで、計23万3801円(月額)となった。
 これを最低賃金を算定する際に使われる1か月の労働時間173.8時間で割ると、最低賃金(時給)として、1,345円が必要であると算定される。

(5)最低賃金は昨年夏の改訂で若干引き上げられたが、その引上げ幅はわずかであり、(最低賃金の)最高額は「766円」である。最低生活費の算定には種々の方法があり得ようし、計数にも幅が出てくるであろうが、それでもなお、今回発表された調査結果は、実際の最低生活費と「最低賃金」の水準の間に大きな隔たりがあることを物語っている。
 政府全体として総合的かつ客観的な実態調査とそれに基づく統一的な「最低生活費」の設定を何としても、急ぐ必要がある。
 それを基準として、社会保障、労働・雇用政策、税制などの諸制度を整合性をもって整えることにより、はじめて体系的な「反貧困政策」が可能となる。
 ヨ-ロッパ諸国では、すでに遠く70年代から「反貧困政策」は、常に政治の最重要課題であったことを我々は肝に銘じておく必要がある。