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「人口減少社会を止める」政策こそが、今、必要である。

text by

小泉龍司

2010.02.01

(1)政府は昨年11月に、消費者物価の継続的な低下をふまえて、「デフレ宣言」を行った。一昨年のリーマンショックの後、世界各国において大幅な景気後退が生じたが、経済がデフレの状態に陥ったのは、主要先進国の中で日本だけである。
 なぜ日本だけがデフレになるのか。その原因を解明し、それを是正する対策を講じない限り、どのような景気対策を打っても、物価の低下→売り上げの減少→雇用者の賃金の低下→消費の減少→再び物価の低下、というデフレのサイクルの中に、その政策効果は吸収されてしまい、景気対策は本来の効果を発揮することができない。

(2)では、なぜ日本では物価の低下が続くのか?
物価低下の内容については、内閣府により次のような分析が行われている。

  1. 電器製品は恒常的に価格低下。・・・これが物価押し下げの一つの大きな要因になっているが、電器製品価格の低下は需要不足のみに起因するのではなく、生産性上昇という要因も含まれる物価の低下であると考えられている。
  2. 雑貨類・日用品などの非耐久消費財・・・マクロ的な需給ギャップを反映し低下。
  3. テレビ・乗用車・パソコンなどの耐久消費財・・・マクロ的な需給と価格の相関は低い。
  4. サービス価格(様々なサービス業の対価)は上昇せず(諸外国では年2~3%の上昇)、安定的に推移・・・背景には賃金の低下。

 このように、日本における物価低下の要因としては、「需給ギャップの拡大」、「サービス業における賃金の低下」や「生産性の向上」など、複数の要因が指摘されている。このうち、「需給ギャップの拡大」とは、企業の供給能力が、消費者による需要を上回る状態が長く続き、それが物価の押し下げ圧力になっているということを意味している。

(3)では、なぜ日本ではこの20年近く、需給ギャップの拡大が続いてきたのであろうか。
 私はその背景には、日本における人口構造の変化があると考えている。
 端的に言えば、日本における「人口減少の見通し」が日本経済低迷の最も大きな要因であると考えている。
 1990年代、日本国民の平均年齢は世界で初めて40歳台に突入し、その後も少子高齢化は止まらない。そして、1人の女性が一生の間に産む子供の数=合計特殊出生率は、昭和49年に人口置き換え基準(人口が減らないための数値)=2.08人を下回り、以後連続的に低下してきており、現在は1.3人台で推移している。
 この1.3人というのは大まかに見れば「一人っ子」であり、2組の夫婦から一人っ子の男の子と一人っ子の女の子が生まれ、結婚したとする。その子供の世代に必要となる住居は1軒であり、親の世代の2軒の住居のうち、1軒は不要ということになる。その子供の世代にまた一人っ子の孫が生まれ、他の家系で生まれた一人っ子の孫と結婚すれば、祖父・祖母世代の4軒の住居のうち3軒は不要になる。
 したがって、人口減少社会においては不動産の価格は必ず低下するし、その住居に付随する家具や電気製品、また車や耐久消費財への需要も減少していくことになる。
 しかも、この人口減少が今後半永久的に続いていく可能性が大きい、ということを国民の多くが知っている状況の下では、将来の需要の減少が、「予想」として現在の企業における投資行動や、市場における価格形成に織り込まれることになる。
 先の例に例えれば、住居への需要が2世代後には4分の1になることが明らかであるならば、現時点において住宅価格は、それを先取りする形で低下を始めることになる。当然、企業も住宅への投資を手控えることになる。
 日本は、主要先進国の中で突出して早いスピードで少子高齢化が進んでいる。そして2005年以降、現実に日本の人口は減少を始めた。この日本における人口減少圧力こそ、日本におけるデフレ圧力の最も有力な原因の一つであると断じても、大きな誤りではないであろう。

(4)最近における様々な経済議論は、「日本が人口減少社会である。」ということを前提にしてしまっているが、最も大切なことは、この人口減少に向かってまっしぐらに進む日本の人口構造の変化を止める、すなわち少子化を止めることではないか。
 折しも民主党のマニフェストには、子ども手当ての創設が掲げられており、来年度、まずは半額の月1万3千円の手当てが創設される。しかし、不思議なことに、来年度だけでも2兆数千億円の予算規模となる子ども手当て制度であるにもかかわらず、これによって日本の人口減少を止めるのだ、という明確なメッセージはほとんど発せられていない。
 鳩山総理の施政方針演説においても、「子育てを社会全体で応援するため」と述べられているだけである。
 またこの政策は、人口減少を止めるためのその他の政策とパッケージになっているわけでもない。例えば、保育所待機児童の解消、企業における育児休業制度の充実、小児科・産科医療体制の整備などの政策と、パッケージとして打ち出されるならば、より有効な少子化対策としての効果を発揮するものと考えられる。
 いずれにせよ、民主党政権においては、「子ども手当て」は必ずしも正面から人口減少対策としては認識されておらず、それはそもそも人口減少の重大性を認識していない、ということに起因しているのではないかと考えられる。

(5)子ども手当てが再来年度以降は、年間約5兆5千億の予算支出を予定していることは、予算規模としては過大であると考えられるが、そのことはひとまず置き、少子化対策の明確な戦略として、上記のような政策パッケージを提示し、国民にもそのことの意味を明確に伝え、その中で日本の人口減少には歯止めがかかるのだ、ということを明確に示すことができれば、日本における経済停滞とデフレを引き起こしている要因の一つは確実に消去できると考えられる。
 問題を正面から見据えること、すなわちデフレの要因をしっかりつかまえること、そこに思い切った対策を打つこと。その「戦略性」こそが、今、求められている。