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増大する人口減少の重圧と衝撃――日本の人口動態こそ隠されたデフレの主因――

text by

小泉龍司

2010.04.22

1.「少子高齢化社会の到来」という言葉は、政治に関わるあらゆる場面で使われてきているが、その本当の実態や、それが日本の経済社会に及ぼしてきた、また、今後及ぼすであろう衝撃の大きさについては、この政治の世界においても十分に認識されているとはいえない。
 近年、アメリカの経済論壇においても、人口動態と住宅市場や住宅ローン市場との関係がしばしば取り上げられるようになってきた。
 すなわち、サブプライムローン問題の背景となったアメリカ住宅市場の活況は、戦後のベビーブーマー世代が50代となり、マイホームを求めたことに起因している、といった分析が行われている。
 また、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授は、かねてより日本の経済を「流動性の罠」(金融緩和により、金利をいくら下げてもそれが投資や消費に結びつかない状況、すなわち、金融政策が無効となってしまう状況)にはめたその犯人は、不利な人口動態である、と指摘している。


2.日本の人口が1億2777万人となり、ピークを迎えた2005年を基点として、その前後に50年ずつの幅をとってみると、次のようなグラフとなる。

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  1. 日本の人口がピークを迎える50年前、昭和30年に日本の人口は約9000万人であり、ピークから50年後の2055年には、再びこの9000万人まで人口は減少していくこととなる。

  2. その差は約3700万人である。
    つまり、昭和30年(1955年)からちょうど50年間で、カナダ一国(約3200万人)を上回る人口規模の国が生まれ、また次の50年で消えていくということである。

  3. この昭和30年は、自民党が結党された年であり、人口がピークを迎える2005年はまさに郵政選挙の年であり、自民党もまた議席数において、そのピークを迎えることとなった。

  4. この人口が増加していく50年の間は、まず子どもの数が増え、続いて生産年齢人口が増えていくため、生産(供給)も需要も順調に増加していく。
    つまり、誰が政権運営を行おうと、うまくいく時代であった。
    例えば昭和30年代には、毎年、人口は100万ずつ増加していき、これが昭和35年以降の高度成長の原動力となった。

  5. ところが1990年代になると、日本の近未来において人口減少が不可避であるということが明らかになってきた。
    1989年(ベルリンの壁が崩壊し、日経平均株価が市場最高値38,950円を付け、また、少子高齢化社会に向けて、消費税が導入された年)に合計特殊出生率が1.57まで低下した。これは1966年(昭和41年)「丙午の年」の合計特殊出生率1.58を下回る水準であり、当時「1.57ショック」と呼ばれた。
    この時点で、2000年代初頭からの日本の人口減少は避けられなくなり、そのことが経済に大きな「重し」としてのしかかり始めたのが、90年代である。時を同じくして、90年代から日本経済はデフレ色を強めていくが、2つの事象は当然、無関係ではない。

  6. 2005年以降、日本の人口は減少し始めた。
    人口増加の時期を担った自民党のノウハウは、人口減少の時代には通用しない。有権者がそのことを明確に意識したかどうかは分からないが、漠然とではあっても、有権者は日本の置かれている状況が根本的に変わり、これまでのやり方では通用しないということを直感的に察知し、政権交代を求めたのではないかと私は考える。

  7. こうして2009年、人口動態が下り坂に入って4年目、民主党は政権を担うこととなった。しかしながら民主党は、今後、徐々に勾配が急になっていく人口動態の下り坂を、無事に乗り切るノウハウを持っているわけではない。より正確に言えば、ノウハウを持つ以前に、これからやってくる人口減少の大きな衝撃を、危機感を持って認識しているとは思えない。
    もし認識しているならば、子ども手当の支給に、もっと真剣に人口減少の歯止めとなる工夫を施したはずである。

  8. 民主党が認識していようがいまいが、人口の下り坂は急速に勾配を深めていく。今から7年後の2017年以降は、毎年の人口減少が50万人に達する。
    私の地元埼玉11区の人口は約45万人であり、小選挙区としては平均的な規模である。つまり、今から7年後以降は、毎年、小選挙区1つ以上が消えていくことになる。
    そして、今から29年後の2039年以降は、毎年の人口減少は100万人を超えることとなる。
    つまり毎年、人口100万人以上の政令指定都市が消えていくこととなる。

  9. 人口が減っていく時は、(人口が増えていく時とは反対に、若者ではなく)高齢者が増えてから人口が減っていく。高齢化社会と人口減少社会は、コインの裏表であり、昭和30年代から40年代の高度成長期とは正反対のことが起こるわけである。


3.以上を踏まえ、特に次の点に留意する必要がある。

  1. 今述べた人口動態の変化は、今後約50年間に起こるという意味では、確かに将来のことではあるが、将来に起こることが現在の価格に織り込まれていく、それが経済原則の必然である。
    将来起こることは、今の価格に織り込まれる。将来人口が急速に減少し、マーケットが縮小するならば、そのことはあらゆる財やサービスの現在価格に織り込まれ、その価格を引き下げる。
    これが、日本だけが大きなデフレ圧力に苦しんでいる真の理由である。
    すいぶんと前に、ポール・クルーグマン教授が言い当てたとおりである。

  2. また、年金制度を含む社会保障制度、その他の日本の社会制度の中で、急速な人口減少を前提として組み立てられた制度は一つもない。今後改めて、これらの制度を見直すことが必要となる。

  3. 人口減少を止めることは難しいが、その減少のスピードを緩めることは可能であり、かつまた必要な施策である。
    ただし、相対的に大きな人口規模を持つ34~37才 (昭和47~50年生まれ)の「団塊ジュニア世代」が、あと5年経つと結婚・出産適齢期を過ぎてしまう。その意味で、少子化対策に残された時間はあと5年しかない。

  4. 子ども手当の政策目的の中に、人口減少の緩和を明確に位置づけるべきである。
    今の制度のままでは、先の論稿(「子ども手当の支給によって出生率は上がるか」)で述べた推計のとおり、月額1万3000円の半額支給で、約1万3000人子どもを増やす効果しかない。
    先ほど述べた人口減少のペースに、とても追いつくものではない。


4.人口動態の下り坂を乗り切るために必要な政策は、少子化対策だけに留まらない。
 医療・介護・雇用・成長、そして財政など、多岐にわたる政策の組み替えが必要になるが、残された時間は少ない。
 50年あまり、人口動態の上り坂を担った自民党に取って代わり、下り坂を乗り切っていける政権党に、民主党がなり得るかどうか。今まさに、その知恵と胆力が試されている。