1.米軍普天間飛行場の移設問題が、迷走を続けている。
鳩山総理自らが問題解決の期限として設定した5月末まで、あと1か月余りとなったが、徳之島に続いて沖縄でも大規模な反対集会が開催され、反対運動が激しさを増している。
オバマ大統領は先日の核安全保障サミットにおいて、鳩山総理との正式の会談には応じず、夕食会の席を借りて、たった10分間形だけの会談を行った。合意を求めるべき相手である沖縄や徳之島、そして米国にもそっぽを向かれ、普天間移転問題は、今や完全に暗礁に乗り上げている。
2.英国では1923年の総選挙で、政権与党の保守党が大敗し、翌年、史上初めて労働党が政権の座に就いた。
しかし、政権の座に就いた労働党は1年も経たないうちに、政権を失うこととなる。
その原因となったのは、安全保障と財政の問題であった。
労働党は、その外交戦略において西側諸国から距離をとり、社会主義のソ連に接近していった。
また、財政面では公約を遵守しようとするあまり、財政の行き詰まりを招くこととなった。
こうした状況を見て、国民の間には「国家の根幹が揺らぐのではないか」という危機感が広がり、労働党政権はあえなく崩壊した。(注)
3.この歴史の教訓を念頭に日本の政治を振り返ってみると、民主党・鳩山政権は今まさに、このイギリス労働党政権の失敗を繰り返そうとしている、ということに、気づく。
米国との間に安全保障に関する不信の溝が広がる一方で、軍備拡張を続ける中国との急接近。
また、マニフェスト違反という批判を恐れるあまり、大幅な税収減という、マニフェスト作成時には必ずしも予想しなかった事態が生じたにもかかわらず、マニフェスト関連予算を大幅に削ることができなかったために、今年度は税収37兆円に対して国債発行額44兆円という、終戦直後以来初めて、国債発行額が税収を上回る予算となった。
加えて、来年度予算要求の基礎となる、この夏の参議院選挙のマニフェストにおいても、衆議院選挙のマニフェストが大きく変更されることはないと見られている。
4.そもそも、鳩山総理が普天間基地の「県外あるいは国外移設」を選挙公約とするに至った大元の原因を探ると、キャンベル国務次官補(当時は野党であったアメリカ民主党の外交ブレーン)の発言(一種のリップサービス)に行き着く。
当時、複数の民主党議員がキャンベル氏と接触し、普天間基地問題については、米国及び日本で共に政権交代が行われた場合には、改めて話し合う余地があるとの感触を得た、と伝えられている。
(具体的に、どのような言葉をキャンベル氏が発したかは、当事者以外分からないが、この問題に関する最近までのキャンベル氏の発言ぶりを聞くと、常に表現ぶりは丁寧であり、リップサービスとも言うべき何がしかの前向きな要素を感じさせる発言ぶりがしばしば見受けられる。)
5.だがしかし、キャンベル氏がどう発言しようが、欧米においては安全保障や財政といった、国家の根幹に関わる問題については、政権交代が行われてもその方針が大きく変更されることはない。だからこそ、国民は安心して政権交代を選択することができる。
これは、先に述べたイギリス労働党の失敗も含め、長い学習期間を経てたどり着いた、欧米の二大政党制の基本原則である。
こうした欧米における政権交代の基本原則を理解していれば、米国において共和党から民主党に政権交代が行われたとしても、米国の国防、安全保障に関わる米軍再編の一環である普天間問題について、米国政府の方針が根本的に変更されることはないということは、十分に予想できたはずだ。
政権が変わっても、安全保障や財政といった国の根幹は揺らがない。それが欧米における政権交代のやり方なのである。
6.ひるがえって日本では、民主党政権が安全保障の問題についても財政の問題についても、前政権がやってきたことをすべて否定しようとする結果、国家の根幹を傷つけ、揺るがす事態になりはじめている。
今、多くの有権者が徐々にそのことに気づき、深く憂慮し始めている。
このまま鳩山政権が、外交・内政ともに方針転換できずに進むこととなれば、かつてのイギリス労働党の轍を踏む可能性は、次第に大きくなっていくであろう。
しかし、事は決して民主党だけの問題ではない。
互いに傷つけ合い、あるいはサービス合戦を行う二大政党制の下で、我々はどうすれば安全保障と財政という国の根幹を守ることができるのか?
何としてもここを乗り越えていかなければならない。
我が国の政治全体が今、大きな試練の場に立たされている。
(注)中西 輝政著「英国「政権交代」失敗の教訓」文藝春秋2009年11月号を参照