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「強盗の家に行って防犯の相談をする」――ゴールドマンサックスの訴追とサブプライムローン問題の本質――

text by

小泉龍司

2010.06.14

1.米国の投資銀行、ゴールドマンサックスは、サブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)関連の証券化商品の販売に当たり、顧客に開示すべき情報を隠していたとして米証券取引委員会(SEC)から民事提訴された。
 これに伴い米上院で開かれた公聴会においては、高リスクの住宅ローン証券がゴールドマンサックス社内のメールでは、「ゴミ」と呼ばれていたことなどが明らかになった。


2.世界経済を危機に陥れたサブプライムローン関連の証券化商品は、2つの部分から成り立っている。
 第一に、証券化商品の大元となっている一本一本の低所得者向けの住宅ローンである。
 第二に、その住宅ローンを何千本・何万本と束ねて「信託」にプールし、その信託勘定に流れ込んでくる住宅ローンの元利払いを引き当てとして発行される証券(これを証券化商品と呼ぶ)、そうした複数の証券化商品をさらにもう一度信託にプールして、そこに流れ込むキャッシュフローを引き当てとして発行される証券化商品、さらにCDSと呼ばれる、証券化商品のデフォルトのリスクそのものに価格をつけて取引するデリバティブ(金融派生商品:金融商品の将来に向けた価格変動のリスクを取引する商品)など、いわゆる極めて高度な数学上の確率論を駆使して、元々は単純な住宅ローンであるサブプライムローンを「加工」し、新たな商品に作りかえる「金融工学」の部分。
 この2つの部分から成り立っているのが、サブプライムローン担保証券である。
 サブプライム担保証券は、一般の住宅ローンを担保にした証券よりもリスクは高いが、元々のローンの金利自体が高いため、ヘッジファンドや銀行などが飛びついた。
 住宅価格が上がり続けているうちはこの仕組みは回っていたが、しかし、住宅価格が下がり、貸倒れが増加しはじめると様子が変わってくる。
 2007年7月に、アメリカの大手格付機関がサブプライム担保証券の格下げを発表すると、株価は大きく下落、続いて翌月、仏の大手銀行であるBNPがファンドの一部凍結を行ったことから、株安は世界中の市場に波及していき、翌2008年10月のリーマンブラザーズの破綻、そして世界金融危機へとつながっていく。


3.米上院の公聴会では、ゴールドマンサックスの幹部に対して「値下がりすると分かっている商品を販売したのではないか?」「社会がくずと呼び、下落を確信していた証券を客に売ったのではないか?」といった追及が行われたが、ゴールドマンサックス側は「下落を確信していたわけではない。質の悪い証券でも買値次第で(顧客は)利益を出せる。」といった弁明を行った。
 価格の下落を知っていた、いや知らなかった、という水かけ論になってしまったという報道もある。
 しかし、サブプライム証券の問題はより根深いところにある。そして、より単純なところにある。単純であったからこそ顧客は(サブプライムローンの借り手も含め)トリックに引っかかり、この壮大な「金融詐欺商品」の犠牲者になってしまったのだ。


4.単純だからこそ見過ごされてきたサブプライム証券の問題点は、次の2点である。

(イ) 顧客にはその商品のプライシング(値付け)の根拠がわからない。
証券化商品やデリバティブ全般について同じことが言えるが、複雑な数理計算の末に導かれる金融商品の価格を顧客の側が検証することは不可能である。言いかえれば、顧客はその商品を組成した投資銀行の言い値でこれを買うしかない。「詐欺」うんぬんと言う以前に、そもそもプライシングの時点で、投資銀行と顧客は保有する情報量において対等ではない。
「いいようにやられる」構造が商品そのものに織り込まれているのだ。

(ロ) 大元のサブプライムローンは、借り手のニーズによって生み出され拡大していったローンではなく、銀行の収益源確保の目的の下、貧困層をターゲットとして意図的に仕組まれていったローンであった。
貸し手・借り手のニーズが合致し、自然に生まれてきた市場ではないから、そこには大きな無理が潜んでいた。


5.サブプライムローンとは、社会的信用度が低い層向けの住宅ローンである。2001年に米金融監督当局が出した通達によると、次のいずれかに当てはまる者が対象となる住宅ローンを「サブプライムローン」と呼ぶ。

(1) 過去12か月以内に30日延滞を2回以上、又は過去24か月以内に60日延滞を1回以上している。
(2) 過去24か月以内に抵当権の実行と債務免除をされている。
(3) 過去5年以内に破産宣告を受けている。
(4) 返済負担額が収入の50%以上になる。

 堤未果著「ルポ 貧困大国アメリカ」で描かれている例では、年収200万円そこそこの移民家族に約5000万円の住宅ローン融資が行われる。月当たりの返済額は、約30万円。サブプライムローンの金利は最初の1、2年は低いが、その後は10~15%に跳ね上がる。返済しきれない金利は元本に組み入れられ、そこにまた金利が付いていく。
 どう考えても、誰が考えても、返済に行き詰まる仕組みになっている。
 返済不能となれば金融機関は担保とした家を取り上げ、資金を回収し、借り手は膨らんだ借金だけを背負って路頭に迷うことになる。
 つまりサブプライムローンとは、貸倒れを前提としつつ、自宅購入という目くらましによって貧困層に借金を負わせて、そこから収益をあげようとする貧困ビジネスなのである。
 貸倒れが前提となっているため、担保にとった不動産の価格の変動がサブプライムローンのパフォーマンスに直結する。


6.米国において、ベビーブーマーによる住宅ニーズが一巡しかかった頃、その埋め合わせのために考え出された(貧困ビジネスとしての)ビジネスモデルであり、不動産市場が下り坂に入っていく中、マーケットが破綻するまでの間のきわどい「さやとりゲーム」があった。
 投資銀行は貧困層に対して、自宅購入という「アメ」を出してサブプライムローンを仕組み、他方投資家に対しては「金融工学」という「目くらまし」(トリック)を使って、その資金を出させた(証券を買わせた)。
 何もニーズがないところに投資銀行が入り込み、資金の出し手と取り手両方にトリックを使って商品を作り、砂上の楼閣のような市場を作った。
 これがサブプライムローンの本質である。


7.アメリカ経済の破綻を予告したエマニュエル・トッドはこう述べている。
 「アメリカに集って金融規制についての協議を行うのは、強盗の家に集って防犯の相談をするようなものだ。」
 決して笑い話ではない。
 つい最近、本当に起こったことだ。