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消費税をめぐる菅総理の発言について

text by

小泉龍司

2010.06.22

1.自民党が参院選マニフェストに消費税率の10%への引き上げ(と福祉目的税化)を明記し、菅総理がその後を追うように、次期衆院選後の消費税率引き上げの必要性に言及し、税率については自民党の「10%」を「一つの大きな参考」にしたい旨を述べた。
 財務大臣としてギリシャの財政危機を目の当たりにしてから、財政問題に対する菅大臣の認識は大きく変わったと言われている。
 財政破綻によりギリシャが国家運営についての「主権」を喪失する姿を見て、財務大臣として何としても日本国の独立を守りたい、との責任感から、財政再建に関する立法の必要性にも言及していた。
 こうした、財務大臣としての菅大臣の姿勢については私も評価し、その旨は先月5月の決算行政監視委員会質疑の際も菅大臣にお伝えした。
 ギリシャに起こったことが、公的債務残高の対GDP比がギリシャよりもはるかに高い日本の財政に起こらないという保障はない。いつまでなら大丈夫、という時間的保障もない。
 従って、政府が財政規律回復について厳しい姿勢を示すことが、何よりマーケットに対して、日本国債暴落の引き金を引かさない防止策になる。
 そういう点では、財務大臣としての菅大臣の姿勢、及び発言は誠に適切であった。

2.しかし、今や菅氏は財務大臣ではなく総理大臣である。国全体の命運を握る立場にいる。
 野党の自民党が消費税率引き上げを主張するのとは重みが全く異なる。
 参院選挙を控えて、唐突に消費税率の引き上げを主張し、しかも野党の自民党案を「一つの大きな参考にしたい」と他党に依存するかのような形でそれを打ち出したことは、政権運営のあり方として焦り過ぎではないだろうか。

3.最近の世論調査の結果を見る限り、高齢化社会の中で、本当に手を差しのべる必要がある人への社会保障給付の財源を確保していく必要性については、徐々に国民の理解が深まってきていることがうかがえる。
 しかし、財源確保の必要性や、その方法としての消費税率引き上げについて、国民の納得を得るためには、次の点について、国民に十分に理解してもらえる丁寧かつ説得的な説明が必要である。

(1) 昨年の衆院選挙以降、鳩山内閣の公約とされてきたマニフェストは、多額の支出を必要とするものであり、まずこのマニフェストを見直すべきである。
バケツの底に穴が空いていては、いくら水(税金)を注ぎ込んでも社会保障にお金は回らないし、財政の再建もできない。
国民との約束を守れなかったという批判は当然出てくるが、それを恐れていたのでは、それ以上前には進めない。
きちんと国民にお詫びした上で、マニフェストの内容を本当に必要なものだけに絞り込むべきである。

(2) 「新しい日本の社会像」を示す必要がある。
ただ「高齢化に対応します」では、国民は納得できない。
新しい財源を使うことにより、年金、医療、介護、子育て、雇用などにどういう新しい仕組みを導入できるのかを、具体的に国民に示す必要がある。
北欧での成功例とされる「スウェーデンモデル」に比肩し得るような社会保障、雇用の「日本型モデル」を新しい社会像として提示してこそ、国民の協力を得ることが可能になる。
このモデルを示すことは簡単なことではない。全政党がそのことから逃げてきたと言うこともできる。
因みに、昨秋と今年の臨時国会と通常国会の議事録検索をかけてみると、本会議と全委員会を通して「スウェーデンモデル」という言葉は(参考人意見を除いて)一言も出てこない。
つまり、我が国が最も参考にすべき北欧の優秀なモデルについて、国会の場では何も議論されていないのだ。
各政党が、いかに目の前のことしか考えていないかということが分かる。
この課題についての答えと選択肢を提示することこそ、今、国民が各政党に最も強く求めていることである。
特に政党与党にとって何よりも大きな使命であり、必須の課題である。

(3) 次に、新しい社会像の実現を図りつつ、他方で危機的状況に陥っている財政の再建を図るためには、どのように新しい財源を社会保障給付と他方で国債の減額に割り振るべきか。その財源配分の全体像を示す必要がある。
それが示せなければ、そもそも必要な財源額を示すこともできないはずだ。

(4) 次に、必要な財源額を示すことができたなら、それをまず無駄遣いの削減と経済成長による税の増収により確保する努力が求められる。
特に無駄遣いの削減については、議員定数や歳費の削減、公務員給与の削減など、議員や公務員の人件費にかかわる部分の削減にどれだけ切り込めるかが特に重要である。
政治家や公務員が自ら身を切ることができなければ、国民は納得しない。
今月示された政府の成長戦略についても、絵に描いた餅に終わらせない緻密な実効性が求められる。高齢化に加えて経済力の低下が進めば、目指すべき日本の新しい社会像も実現困難となる。

(5) こうしたステップを踏むことができて初めて、国民は税負担増加についての議論を行うことを容認するであろう。


4.以上述べたステップを順を追ってきちんと踏むことこそ、今や財務大臣ではない、総理大臣になった菅首相の責任である。
 意気込みは分かる。国民の側に一定の理解はあるかもしれない。
 しかしそこからが大切であり、肝心である。
 「野党も言ってますから」では済まされない。
 国が進むべき道を誤らないためにも、しっかりと構え、政局的な配慮をそこに紛れ込ませることなく、正道をひたむきに歩く真摯な取り組みこそ、国民が今、菅政権に最も求めていることである。