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民主党代表選挙に思う(その3)―「共同幻想の政治」から「現実直視の政治」へ―

text by

小泉龍司

2010.09.13

1.先の論稿で述べた「否定の政治」から「構築の政治」へ。
 日本の政治がそこへ進んでいくためには、もう一つ乗り越えねばならない壁がある。
 「共同幻想の政治」から「現実直視の政治」への転換が図られねばならない、と私は思う。
 1933年、日本は国際連盟を脱退しても国際社会の中で生き延びていける、との国をあげての「共同幻想」の中にいた。
 今、冷静かつ客観的に歴史を眺めることができる我々の目から見れば、(結果論ではなく)それがいかに不合理な選択であったかは自明である。
 しかし、当時はマスコミがこれを煽り、国民の多くが賛同し、政治の大勢もこれに流されていった。
 それから8年後に日米開戦、12年後に敗戦に至ったのは当然の帰結である。


2.私は、決してこれは過去だけの日本の姿ではないと思う。
 「構築の政治」に進む前提として、我々は現実を直視する必要がある。
 財源の問題である。
 こと財源問題に関しては、我々政治も国民もマスコミも、ある種の「共同幻想」の中にいると私は感じる。決して現実を見ていないと思う。複雑な説明は要しない。
 今年度(当初予算)の税収見積もりは約37兆円である。
 どうしても支出しなければならない基本的な支出が2つある。

〇国債の利払いと元本返済    20.6兆円
〇社会保障費27.2兆円
合計 約48兆円

 この時点ですでに10兆円を超える赤字である。(すなわち社会保障以外の行政をすべてストップしても、毎年10兆円超の赤字が出、加えて国債費も社会保障費も今後、ますます増加していく。)
〇この他に、地方交付税 17.5兆があり、これを大幅カットすれば自治体行政が成り行かない。
〇この他に、農水・エネルギー対策費 各1兆
文教費、公共事業費、防衛費が各々4.7~5.7兆円
                  小計 18兆円
〇これ以外に恩給費0.7兆、経済協力費0.5兆 その他5兆

 これら歳出合計は92兆となる。
 税外収入が恒常的に約5兆円あるが、
92兆-37兆(税収)-この5兆=約50兆円
の穴が今年度予算には開いているし、何もしなければ来年度以降の予算でも開いていく。


3.この穴をどうやって埋めていくのか?

(1)いわゆる霞ヶ関埋蔵金の発掘(特別会計の剰余金や積立金の一般会計への繰り入れ)も、この3、4か年度行われてきており、累計で繰り入れは約30兆円を超えている。残されるのは、私が決算行政監視委員会で菅財務大臣(当時)に指摘した、外為特会の積立金20兆円を段階的に取り崩すしかない。しかし、これは1回限りであり、時間稼ぎにしかならない。

(2)地方への補助金21兆円を、各省のヒモ付きではなく、自治体が自由に使える一括交付金にすれば、総額は3~5割カットされても地方はやっていけるという議論がある。
 しかしながら、仮に自治体の側がこれで納得したとしても、補助金総額21兆円のうち、他に転用できない社会保障関係が15兆円を占めており、残り6兆円を半分カットしても3兆円にしか出てこない。

(3)無利子国債には別稿で述べるとおり、退蔵された現金が流入する場合には、脱税の合法化という国家としてのモラル破壊の問題があり、また合法資金が流入する場合には、差し引き国の財政負担は増加する。
 得をするのはトップ4%の富裕層である。

(4)総額30兆円以上に上る、政治家の歳費給与と公務員給与については引き下げの余地がある。仮に2割カットできたとして
30兆×20%=約6兆

(5)事業仕分けによる支出カット。
昨年末行われてきた事業仕分けで節約できた支出は、約8000億円である。


4.以上の措置を積み上げてみても、(外為特会積立金を別にして、毎年使える新規財源は)せいぜい約10兆円であり、予算に開いた50兆円という大きな穴は到底埋められない。
 この穴は今後さらに拡大していく。
 これが現実である。


5.厳しい現実を直視できるか否かで、その国のその後の命運は決まる。
 明治維新の時の現実直視。
 1933年の共同幻想。
 いずれがその後の国の安定をもたらしたか、今、考えてみる必要がある。
 日本の政治に、現実を直視できる「強さ」が本当にあるのかが試されている。
 その強さがなければ、「構築の政治」に脱皮することも難しい。