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日本の社会をどう変えればいいのか(2)―90年代までの日本の「生活保障システム」(「家族」と「完全雇用」が担った生活保障)―

text by

小泉龍司

2010.09.28

1.日本独自の「生活保障システム」

 主要先進国いずれの国においても、形は異なるが19世紀以来、生活保障の仕組みが作られてきた。
 それはおおまかに、アングロサクソン型(アメリカやイギリス)、ヨーロッパ大陸型(フランスやドイツなど)、そして北欧型(スウェーデン、デンマークなど)に大別される。
 その中で日本は、いずれの国とも違う一つの固有な社会保障システムのモデルを作ってきた。
 それは、「家族」と「完全雇用(長期安定雇用)」を柱とする生活保障システムである。
 その特徴は次のとおりである。

(イ) 経済成長による完全雇用を目指す。

(ロ) 産業・業界毎に規制・補助金あるいは公共事業といった業界、ひいては企業を守る政策(護送船団行政)を維持。

(ハ) 雇用の形態として、企業は「正社員の終身雇用制」を維持することにより、長期安定雇用を実現。

(ニ) 世帯主が主な働き手となり、企業は世帯主に対して妻、子ども(多くの場合父母)を養うことのできる生活給を支給。

(ホ) 世帯主によって扶養される主婦が、子育てや老父母のケアを行うことにより、国の社会保障機能を代替。

(ヘ) 高齢者は子ども世帯と同居することにより、収入の喪失による貧困化を回避(1960年代の三世代同居率は約80%に達していた)。

(ト) 長期安定雇用の下で「家族」によって社会保障機能が担われたため、国の社会保障制度は、子育て支援や現役世代支援については手薄となり、老後支援(年金)や高齢者医療を中心に整備されていった。

(チ) 経済成長による税収増は、社会保障の充実よりも、むしろ公共投資や(業界毎の)補助金交付による業界支援や、景気の維持、経済成長政策に優先的に配分された。

(リ) こうして、「長期安定雇用」と「家族」が様々な生活リスクに対する防波堤の役割を果たしたため、人生のリスクはかなり定型化されたパターン(病気・失業・老齢化)に限定されることになり、これに見合う社会保険(健康保険・失業保険・年金)を整備すれば、これらの定型化されたリスクをある程度コントロールすることができた。


2.こうした特徴を持つ日本型の「生活保障システム」が、1990年代までは維持され、又、何とか機能し、日本に「一億総中流」と言われる社会を作り上げた。
 このシステムの根っこにあったのは、業界毎に規制や補助金、あるいは公共事業によって企業を守り、企業を守ることによって長期安定雇用を守ろうとした「業界行政」「護送船団行政」の考え方、手法である。
 そしてもう一つ、このシステムを支えたものは、「家族の絆」に対する日本人の規範意識であった。
 90年代以降、この日本の安定的生活保障システムを支えていた2つの要因が、ともに崩れていくことになる。

(以下、次稿