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日本の社会をどう変えればいいのか(3)―「雇用を通じた安定的分配」ができなくなった背景―

text by

小泉龍司

2010.10.01

1.80年代まで日本独自の「生活保障システム」を支えてきた完全雇用と長期安定雇用は、90年代以降、次のような経済構造、経済環境の変化により、次第に崩れていくこととなった。

(1)経済成長の鈍化
 物質的な飽和感と、人口高齢化の中で成長率が鈍化。限られたパイの奪い合いの中で、次第に中小企業、地方企業が圧迫されていった。

(2)情報技術革新の進展により、従来の技能が陳腐化し、技能職の所得水準の低下が生じた。(かつては学歴にかかわらず、その技能によって高所得を得ることも可能であった。)

(3)経済のグローバル化による国際競争の激化
 安い海外製品、安い海外の労働コストが国内の雇用者所得の引き下げ圧力となった。
 国際的なコスト競争の下、労働規制が緩和されていく中で、企業は正規雇用から非正規雇用への切り換えを進め、長期安定雇用が急速に崩れていった。
 また、仮に正社員として働くことができても、企業の人員配置は少数精鋭となり、正社員も過大な残業等を強いられる状況が生まれてきている。

(4)企業や雇用の場の2極分化が進んだ。

(イ) 相応の見返りが得られる事業のノウハウの運用にかかわる労働(高付加価値労働)と、低賃金に据え置かれる単純労働(低付加価値労働)に、雇用の場が2極分化

(ロ) グローバル経済圏企業(海外との取引関係を持つ企業)とドメスティック経済圏企業の2極分化が進んだ。(これについては次稿で述べることとする。)

2.かつてはマクロ経済の成長が、社会を構成するすべての人々の経済水準を押し上げ、国民が等しくその恩恵を受けることができた。
しかしながら、以上述べた変化により、そもそも経済の成長が停滞することに加えて、仮に経済が成長しても、その恩恵が広く等しく国民には及ばない構造に、経済全体の仕組みが変化してきたという点は、これからの日本の社会のあり方を考える上で、極めて重要なポイントである。
 仮に景気が回復しても、あるいはたとえ「正社員」として働くことができても、しっかりした見返りを得ることができる安定的な職場が、どんどん減ってきている。
 景気が回復しても、もはや、それが見返りのある安定的雇用を通じて、国民に広く行き渡る状況ではなくなってきている。
 「雇用を通じた安定的(格差がないという意味も含めて)分配」こそが、日本型生活保障の骨格であった。しかしながら上記のような経済構造の変化は、日本の長期安定雇用を崩し、ひいては日本の生活保障システムの根幹を崩壊させることになった。

(以下、次稿