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日本の社会をどう変えればいいのか(5)―「家族の解体」と日本の社会保障制度の弱さ―

text by

小泉龍司

2010.10.09

1.80年代までの生活保障システムを支える重要な柱であった家族も、「解体」(最近の社会学では「世帯解体」と呼ばれる)をはじめている。
 かつては多くの高齢者は、家族とともに生活し、その支援を受けて老後を全うしていた。1960年代の3世代同居率は80%に達していた。
 しかし、近年高齢者の単独世帯の増加が著しく、3世代同居率は20%程度まで落ちている。
 今後、2005年から2030年にかけて、高齢者の単独世帯は1.86倍に増加すると見込まれており、2030年には高齢者世帯の37.7%が単独世帯になると見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。


2.また、前稿で述べたように、長期安定雇用が崩れてきた結果、そのシワ寄せを最も強く受けているのが若年層である。
 非正規雇用者の比率が高いのは、若年層、女性、そして高齢者層であるが、その中でも若年層の非正規雇用者比率は急速に増加してきている。
 安定的な仕事に就けなければ、結婚することもできない。
 こうした形で若者の家族形成力が奪われてきていることは、極めて重要な問題がある。止まらない少子化の背景にも、この問題が重たく横たわっている。
 以上のとおり、家族が解体し、他方で新たな家族が形成されない。
 この中で多くの人々は、人生のリスクへの防波堤を失いはじめている。


3.こうした状況に対して、日本の社会保障制度はうまく対応できているのだろうか。
 先に述べたとおり、日本では「長期安定雇用」と「家族」が、他国では国が果たしている社会保障機能を肩代わりしてきた。
 長期安定雇用や家族が社会のセーフティネットであったために、日本の社会保障制度のセーフティネット機能は、諸外国に比べて明らかに脆弱である。
 従って、所得再分配機能も(現役世代から高齢者への年金財産を通じた所得移転を除いて)諸外国に比べて弱い。
 「長期安定雇用」と「家族」が崩れはじめた90年代半ば以降、日本の所得分配の不平等度が高まってきたのも、こうした点を考えれば当然の帰結であった。
 2000年代に入り、「格差」や「貧困」の問題がクローズアップされてきた背景には、日本の生活保障の支えであった「長期安定雇用」の崩壊と「家族」の解体、加えて、現役世代に対するセーフティネット機能が整備されないまま放置されてきたという、日本の社会保障制度の脆弱性がある。
 長期安定雇用と家族を失った国民は、防波堤なしに様々なリスクに直面することになったが、そういう時にこそ手を差し延べてほしい公的な社会保障制度は、依然として未整備のままである。


4.こうした事態に対応してもらいたいというのが、国民が政権交代に期待した最も大きな理由であると私は考えるが、民主党からは、生活保障システムを再編するための具体策はもとより、その構想すら十分には語られていない。

(1)子ども手当て
 「生活が第一」の民主党が持ち出したのが、子ども手当てである。生活保障の新しい仕組みが求められているにもかかわらず、それには全く触れずに、単に「社会で子どもを育てる」という抽象的な理念のみに基づいて、つまり、限られた財源をどのように新しい生活保障システムの構築に用いるか、ということを体系的に研究、検討することもなく、多額の予算を投入し始めている。
 少なくとも、公的教育の充実、保育所の整備、育児休業補償の水準アップ、母子・父子家庭への重点的な子育て支援の必要性の有無、所得制限の必要性の有無、第二子以降への傾斜配分の必要性の有無、そもそも結婚できない若年層への支援といった点を、しっかり具体的に検討し、体系化して国民に示した上で、国民の判断を仰ぐべきである。
 結婚して子どもを生み育てる、という段階以前に、そもそも経済的制約(不安定な雇用)や家庭的制約(親の介護)により、結婚できないあるいは結婚しても子どもが持てない若年層に対し、国は支援の手を差し述べるべきではないか。

(2)成長戦略
 最近は民主党は、ようやく「成長戦略」に重点を置く構えを見せている。菅総理の「一に雇用、二に雇用。三に雇用」というかけ声も、「成長戦略」に共振して聞こえる。
 6月に発表(閣議決定)された「新成長戦略」は、何としても実効性をもたせてほしいと私も思うが、しかし、仮にこれが一定の経済成長に結びついたとしても、前稿等で述べたとおり、今やその恩恵が広く国民に行き渡るような経済構造にはなっていないのだ。
 そういう意味では、これまでの民主党の政策は、「改革なくして成長なし」として、生活保障システムの崩壊を放置して経済成長を求めた小泉内閣と、政策の実態という意味では本質的にはそう変わっていないのではないか。

(以下、次稿