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日本の社会をどう変えればいいのか(10)―人生の第2ステージ:若者から奪われる機会の平等―

text by

小泉龍司

2010.11.18

1.「若者」は、学業を終えて労働市場の入り口にいる、という点で、「機会の平等」確保が強く求められる人生の第2ステージに立っている。
 今、「若者」に生じている最も大きな問題は、非正規雇用の増加の問題である。
 近年、非正規雇用が大きな社会問題として取り上げられてきているが、男性について見た場合、非正規雇用者の増加は、主として15~24歳の年齢層(と65歳以上の高齢層)で生じている現象であり、25~54歳の働き盛りの年齢層では、非正規雇用者の割合はさほど増加していない。すなわち、非正規雇用は若年層に集中的に負荷をかけている問題であること留意する必要がある。
 他方、女性の場合は、もともと非正規雇用の中で大きなウエイトを占める中高年のパート就労だけではなく、若年層を含めた全世代で非正規雇用化が進んでいることに着目する必要がある。


2.若者の就業が非正規雇用の形でスタートすることの大きなデメリットは、それがその後も尾を引くということである。
 一度非正規雇用に入ると、なかなかリカバリーが効かず、正規雇用者として就業することは相当に難しくなる。
 就職できなかった大学新卒者があえて留年して大学に残り、翌年新卒者として再挑戦する背景にも、そうした事情がある。
 最初のつまずきがその後の人生(仕事のキャリア)にずっと影を落としていくという状況は、まさに「機会の平等」が失われていることを意味する。


3.さらに、非正規雇用は若者の家族形成にも大きな影響を及ぼしている。
 経済的理由から、結婚したくても結婚できない若者(特に男性)が着実に増えており、若者の家族形成についての「機会の平等」が奪われはじめている。
 最近、結婚できない理由として経済的理由を挙げる傾向は、特に男性の側に顕著である。その背景として、男性が家計の稼ぎ手であらねばならない(一家を支えねばならない)という規範意識が強く働いている、という点が指摘されている。
 実際、女性の就業には昇進の機会や報酬の面、あるいは子育ての後の復職の面でも多くの制約があるため、まだ多くの場合、男性の補助的役割にとどまっており、完全な形での「ダブルインカム」を手にすることは難しい。その結果、一家の稼ぎ手としての男性の役割は相対的に重くなり、それがハードルとなって、男性が結婚に踏み切れない状況が生まれてきていると見ることができる。
 このような状況の下で、若者の晩婚化、未婚化は着実に進行し、平均初婚年齢は男性30.2歳、女性28.5歳まで上昇してきている(2000年代に入ってから、男女ともに1.4歳~1.5歳晩婚化が進んでいる)。
 現在、20代男性の7割、20代女性の6割が未婚である。


4.晩婚化が進む中で目立って増えてきているのが、高齢の親と暮らす成人未婚者の世帯である。
 成人未婚者が働いて親を支えている場合もあるが、職に就くことができない子どもを親が年金で支えるという世帯もめずらしくはなくなってきている。


5.以上述べたとおり、人生の初期、まさに「機会の平等」が最も強く求められるべき時期であるにもかかわらず、若者には大きな負荷がかかり、雇用においても結婚においても「機会の平等」が大きく損なわれはじめている。
 「若者を甘えさせるな。おれ達は厳しい生存競争を戦ってここまで生き延びてきたのだ。」と言われる方も少なからずいらっしゃると思うが、頑張ればまだ何がしか見返りがあった、経済成長を基調とするかつての時代と今とでは、状況は明らかに異なってきている。
 来春卒業予定の大学生の就職内定率は、10月1日現在で57.6%(前年同期比4.9ポイント減)であり、調査が開始された96年以降、最低の水準となっている。
 今春、高校を卒業したものの、今も「求職中」の若者も、文部科学省の調査によれば1万人近くいる。
 若者が置かれている経済環境がこのように大きく変化してきているという事実を、我々は十分認識しなければならない。


6.加えて、こうした現象は我が国だけに生じているわけではなく、グローバリゼーションに対応する中、さまざまな国で若者が犠牲にされるような構造が生まれている、という指摘が行われている(毎日新聞11月17日「異論反論」への雨宮処凛さんの寄稿)。
 それによれば、韓国では、非正規雇用率は60%以上に達し、特に低賃金に苦しむ20代は、その平均月収から「88万ウォン(約7万円)世代」と呼ばれている。
 また、イタリアでも派遣労働しか仕事がない20代の若者が「1000ユーロ」(約11万円)世代」と呼ばれ、同名の小説が2006年には大ヒットした。
 世界各国で若者が苦境にあえぐ構造が生まれており、韓国の経済学者ウ・ソックン氏によれば、現在「20代の若者がそれほど大変ではない国」は、スウェーデン、フィンランド、スイスぐらいにとどまるとのことである。


7.特に日本では、若者にかかる大きな負荷に対して若者をサポートし、機会の平等を回復させる社会保障の仕組みは、これまでほとんど手つかずのままであった。
 就労支援の仕組み、職業訓練と生活支援の仕組み、働くことに対する正当な対価を保証する仕組み、住宅支援の仕組みなどを導入することがどうしても必要である。
 これらの施策については、前稿の場合と同様、稿を改めまとめて述べることとしたい。