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2010年度補正予算の成立(11月26日)(その1)

text by

小泉龍司

2010.11.30

1.「総額4兆8513億円の円高・デフレ対策を盛り込んだ」(政府説明)2010年度補正予算が、26日成立した。
 補正予算案は、衆議院で可決、参議院で否決された後、両院協議会(衆参10名ずつの委員により構成)で協議が行われたが、賛否同数であったため、最終的には憲法の規定に基づき「衆議院の議決を国会の議決とする」と横路衆院議長が宣告し、補正予算が成立した。


2.今回の補正予算は、10月8日に閣議決定された「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を実施するための措置であり、総額は4兆8513億円であるが、その主な財源は、

(1) 今年度の税収見積もりが当初の37兆3960億円から39兆6430億円に増額されたことに伴う、今年度の税収増加分2兆2470億円
(2) 昨年度(21年度)の剰余金2兆2005億円 など


である。
 要するに、昨年度と今年度で余ったお金を原資としており、新たな国債は発行していない。


3.ただし、次の点には留意する必要がある。

(1) 今年度の税収見積もりが約2兆2000億円増加したことに伴い、その中から地方交付税として振り分けられる分も1.3兆円増額となり、これが交付税特別会計に繰り入れられた。
この1.3兆円は「円高・デフレ対策である」として、補正予算総額にカウントされているが、実際に今年度自治体に交付されるのは、3000億のみであり、差し引き1兆円は特別会計の中に貯め込まれる。
従って、「「総額4兆8513億円」という補正予算の総額は、明らかに約1兆円過大表示になっている。
(2) 補正予算の内容を詳しく見ると、「円高・デフレ対応」というよりは、既存の予算項目の積み増しに過ぎない項目も多い。例えば、
(イ) 現行の高齢者医療制度の負担軽減措置の継続(70~74歳の患者負担割合の引き上げの凍結等)の費用として2807億円。
これ自体は望ましく、必要な措置であるが、これを「円高・デフレ対応」と呼ぶのは無理がある。
(ロ) 同様に、麻生内閣の補正予算の内容に含まれていたものの、政権交代後の見直しで削減された「地域医療再生基金の拡充」等に2670億円が計上されている。その他の項目も含め、医療関係が6773億円。
これらも必要かつ重要な施策であるが、円高・デフレ対策と呼ぶのは無理がある。
(ハ) また、農水省関係の「食料自給率向上に向けた生産基盤の整備」等、約1900億円も、基本的には農業政策の観点から支出されるものであり、円高・デフレ対策というのは難しい。
(ニ) 以上のように医療関係費や農政関係費は、多くが既存の予算の積み増しであり、これらを差し引くと、大括りに見て本来の円高・デフレ対策と呼び得る施策は、

総額4兆8513億-約1兆円-約1.1兆円(医療関係費、農政関係費等)=2.7兆円程度である。


4.自民党が提出した修正案は、その骨子しか明らかにされていないが、突き詰めていけば、次のような内容である。

(1) 支出を約1.7兆円上積みする。

(イ) 地域活性化交付金の上積み(0.35兆円→1.5兆円へ1.15兆円上積み)
(ロ) 農山漁村地域整備交付金(0.03兆円)を止めて、従来の農業農村整備事業を上積み(0.3兆円)
(ハ) 家計を支える高齢者・女性の就業支援(0.1兆円)
(ニ) 児童・学生のいる失業世帯に対する緊急就学支援(0.1兆円)
(ホ) 米価下落対策(0.05兆円)

(2) 支出上積み分1.7兆円の財源は次のとおり。

(イ) 実質的な国債増発(0.4兆円)・・・・当面の国債発行額は2.7兆円とされているが、民主党案では補正予算の財源とされた21年度余剰金や今年度の増収分が、国債の償還に充てられるとすれば、実質的には
2.7-1.4-0.9=0.4兆の国債増発ということになる。
(ロ) 今年度予算の予備費(経済危機対応地域活性化予備費)の活用(0.9兆円)
(ハ) 自民党が「4Kバラマキ施策」と呼ぶ、子ども手当て、高速道路無料化、
戸別所得補償制度、高校無償化の今年度の執行停止(0.5兆円)

(3) 自民党の修正案を突き詰めれば、

(イ) 「4Kバラマキ施策」の支出をやめ、それに今年度の予備費を加えて地域活性化交付金を1.15兆円上積みするとともに、
(ロ) 予備費の活用と若干の国債増発により、農業(米価を含む)対策に0.35兆円、女性・高齢者の失業対策に0.2兆円上積みすべき、との主張であった。

 ということであり、その哲学を一言で言えば、「4Kバラマキ施策の今年度分の支出をやめて、その資金を地方に配分せよ」ということである。


5.以上を総括すると次のとおりである。

(1) 政府の発表によれば、4兆8513億円の予算規模に、公共事業の契約の前倒し2388億円を加えれば、総額5.1兆円程度の対策になる、とされており、新聞等でも約5兆円の円高・デフレ対策と報道されているが、実際にはこれは明らかな過大表示である。
政府は何とか予算規模でGDP約470兆円の1%、4兆7000億を超える規模と発表したかったのであろう。「5兆円」という切りの良い数字にもこだわったのであろう。
しかし、実態は2.7兆円程度、対GDP比で0.5~0.6%程度の規模にすぎない。
私はもっと補正予算の規模を大きくすべきであると主張しているのではない。もっともっと根本的にやるべきことがあると考えている。
これについては「日本の社会をどう変えればいいのか」の連載を引き続きお読み頂きたいが、少なくとも「円高デフレ対策」としての実際の予算規模については、正確に国民に知らせるべきであると考える。
(2) 自民党の対策についてもコアの2.7兆円分の支出についてはこれを認めており、結局「バラマキ4K施策」を止めて他方に回せと言っているに過ぎない。
民主党のマニフェスト憎しは分かるが、その代案が「地域活性化交付金」の積み増しだけというのは、知恵がなさ過ぎるのではないか。
地域活性化交付金については次の稿で述べるが、これはもともと公明党の提案を民主党が取り入れたものである。一定規模の地域活性化交付金は必要であろうが、「4Kバラマキ施策」にとって代えるべき円高・デフレ対策は国レベルでは思いつきません。あとは地方でやって下さい。と言っているに等しい。
これでは自民党としての円高・デフレ対策についての新しい知恵や政策は何もなく、専ら民主党の批判をしていると、国民から見られても仕方ないのではないか。