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公共事業・補助金の一括交付金化について考える

text by

小泉龍司

2010.12.19

1.公共事業に関する補助金の従前の仕組み(21年度まで)は、次のようなものであった。

(イ) 公共事業関連補助金は、「道路」「まちづくり」「治水」「下水道」「住宅」「港湾」「海岸」などの費目に細分化され、その費目の中にも使途区分が設けられるケースもあった。こうした区分を越えて補助金を流用することは認められていなかった。

(ロ) 具体的には、一つ一つの個別の事業毎に補助金が付与される(いわゆる「箇所付け」)という形がとられていた。


2.今年度「社会資本整備交付金」(22年度当初予算2.2兆円)が創設され、国土交通省所管の地方公共団体向けの個別補助金が、一つの「社会資本整備交付金」に束ねられた。

(イ) 費目の区分もより大括りになり、「活力創出基盤」「市街地整備」「水の安全・安心基盤確保」「地域住宅支援」の4項目。これらの項目の中では、補助金の流用が弾力的に認められることとなった。

(ロ) 地方公共団体(都道府県ないし市町村)が作成する「社会資本総合整備計画」に基づいて交付金が付与される。 一つ一つの個別の事業に対して「箇所付け」が行われるわけではない。

(ハ) 基本となる「基幹的な事業」の他に「関連する社会資本整備」や「関連するソフト事業」も上記の計画の中に含めることにより、交付金の対象とすることができるようになった。

(ニ) 複数年にまたがる計画年度の枠内で、交付金の支出を年度をまたいで弾力化できる。

(ホ) 来年度(23年度)要求額は、「元気な日本復活枠(1兆円)」への特別要求を含めて今年度当初予算と同類の2.2兆円。国費率は従前の補助金と同率。新しい対象事業は2分の1。

(ヘ) 今回の補正予算により、1854億円を追加計上。


3.公共事業に関する補助金の仕組みは、以上見てきたとおり、個別補助金から段階を追って「補助金の統合化」の方向へと衣替えが進められてきており、来年度予算においては、地方自治体に配分の裁量権をすべて委ねる一括交付金が、創設される予定である。その財源としては、上記の社会資本整備総合交付金の一部が充てられる。
 地方自治体にとって使い勝手が良いのは、確かに地方が配分の裁量権を持つ「一括交付金」であるが、他方「現場に近ければ判断を誤らない」と常に言えるのか、という基本的な問題についても、今一度冷静に考えておく必要があるのではないだろうか。
 例えば、補助金を配分する者(これまでは国)と使う者(自治体)が分離されているからこそ、チェックが効く(隣接地域での重複投資などがチェックできる)という観点から見れば、地方への一括交付金ではこの機能が働かない。
 他方、この機能が働きすぎると、地方のニーズを活かしきれない。
 一括交付金のメリットとデメリットとしては、これまで次のような点が指摘されている。

〇メリット
(イ) 中央官庁が全国一律の基準で事業の採択(補助金の交付)を行うと、地域の自主的な判断が損なわれ、地方にとって本当に必要な事業に資金が配分されにくくなる。
(ロ) 住民により近いところにある地方自治体こそが地域のニーズをより正確に把握しており、そこにより多くの財源を配分することが、地域の活性化につながる。

〇デメリット
(イ) 一括交付金は、一定の財源を外形的な基準(人口、面積等)で各自治体に配分せざるを得ない。 個別補助金の場合は、採択を目指す自治体間で「都市間競争」が行われ、より説得力のある事業が採択されたが、外形標準による一律配分になれば、自治体はこうした努力をしなくても。待っていれば交付金を手にすることができる。

(ロ) 資金を配分する者(中央省庁)と資金を支出する者(自治体)が別個である結果、隣接地域での重複投資などのチェック機能が失われるおそれがある。


4.ある地方の中核都市で副市長を務めている私の知人から、次のような話を聞いたことがある。
 「政治家(市長)は構造上弱い立場にあることを忘れてはならない。選挙の洗礼を受けざるを得ないからだ。現場にいると様々な無理な要望も多い。私たち公務員は生活が保障されているからそれを断れるが、市長だとそうはいかない場合もある。その時の助け船が『それは国が認めてくれない(補助金を出してくれない)』という理由を持ち出す、ということだ。一括交付金になると支出の裁量は自治体が持つので、そういう断り方はできなくなる。そこが怖いと思っている。」
 現場に近いほど適切に判断できることも多いだろうが、逆に判断が歪む場合もある。
 「地方主権」という概念の中身に分け入って、丁寧に、冷静にこれからの交付金や補助金のあり方を考えていく必要がある。
 「一括交付金」も、その中の一つの重要な問題である。
 「一括交付金」については、先に述べたメリットとデメリットのバランスをしっかり見極めた上で、レビューを繰り返しながら、制度の成熟度を高めていく必要がある。
 「地方主権」という四文字熟語で思考停止に陥らずに、国と地方の適切な役割分担について、常に住民の立場に立って答えを見つけてゆく努力が求められる。