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「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」について―主権を守る防衛力と外交力が強く求められている―

text by

小泉龍司

2011.01.12

1.昨年末、我が国の防衛のあり方についての基本的指針となる「防衛計画の大綱」と、それに基づき今後5年間の具体的な防衛力の整備計画を定める「中期防衛力整備計画」が策定され、年末12月18日に閣議決定された。
 防衛計画の大綱は、1976年(昭和51年)にはじめて策定されて以来、1995年、2004年に改定され、今回が3回目の改定である。
 中国の軍備増強と軍事的プレゼンスの増大(注1)や、北朝鮮の挑発行動が東アジアの軍事バランスに大きな影響を与えはじめた現在の状況の下で、今回の改定は、我が国の今後の安全保障体制の確立を図る上で、極めて重要な意義をもっている。
 その主な内容は次のとおりであり、現時点の状況に即して考える限り、妥当なものであると言い得る。
 しかし、今後の東アジアの状況の変化に即応してその内容を常に見直し、状況変化に対応していくことが必要である。
 この大綱と防衛計画を必ずしも固定化して考える必要はない。今後の安全保障のスタートラインとして位置づけるべきである。

2.防衛力整備の基本的考え方の転換
 従来は、国土全域に最小限の戦力を均等に配備し、自衛力の「存在」そのものに抑止力を持たせるという考え方が基本に据えられていた。
 「基盤的防衛力構想」と呼ばれてきた考え方である。
 今回の大綱ではこれを改め、「多様な事態に即応できる態勢」の整備を図ることを防衛力整備の基本に据えた。戦力の「存在」ではなく、戦力の「運用」に重点が置かれる。従来の「静的防衛力」から「動的防衛力」への切り換えと言うこともできる。
 刻々変化する我が国周辺の事態に即応していく能力を高めることは、極めて重要である。

3.北方から南西へのシフト
 北(ロシア)の脅威から中国・北朝鮮の脅威への対応に、防衛力の重点をシフトするものである。
 具体的には、北に向けて配備されていた戦車600両を200両削減して400両とし、代わって沖縄の戦闘機部隊を一個飛行隊(18機)増強する。
 また、潜水艦は1976年のはじめての大綱以来16隻体制が維持されてきたが、今後は22隻体制に増強される。
 与那国島には約100名の「沿岸監視隊」がはじめて配備され、レーダーと地対艦ミサイルが配備される。

4.技術革新への対応

(1)ミサイルの脅威への対応

①海上配備型迎撃ミサイル(SMS)搭載型イージス艦を4隻から6隻へ増強し、常時2隻が展開できる体制をとる。
  因みに海上自衛隊のSMS搭載イージス艦は、大気圏外での弾道ミサイル迎撃に成功した、アメリカ海軍以外の唯一の艦艇である。

②陸上配備のパトリオット(PAC3)を全国の上空をカバーできるよう増強配備。

(2)次期主力戦闘機(FX)の12機導入(機種未定)

 アメリカ他8カ国が共同開発した第5世代戦闘機であるF35ライトニング2について、日本は埒外に置かれている。
 早急にF35ライトニング2の技術情報の開示を米国に求めていくこととされた。
 中国でも今後10年以内を目安に第5世代戦闘機の開発が進められている。
 第5世代戦闘機が主流となれば、現在の自衛隊F15(第4世代戦闘機)では全く歯が立たない。
 他方、我が国の防衛産業の技術だけで第5世代戦闘機を開発することは極めて難しいと言われており、早急に具体的な手を打っていく必要がある。

(3)武器輸出三原則(注2)の扱い

 我が国の防衛産業の技術力が成長していかない理由として指摘されているのが「武器輸出三原則」の制約である。
 基本的に海外に武器を輸出できないため、多額の費用を要する技術開発に充てる資金を回収、確保できないという問題である。また、アメリカを除く諸外国と共同開発を行うこともできない。
 社民党への配慮から、今回、武器輸出三原則の緩和が見送られ、大綱では「装備品の国際開発は世界のすう勢である。」「装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討」との記述が行われるにとどまった。
 今後、防衛力はますます技術力の段階で勝負が決まってしまう状況へと進んでいくであろう。我が国固有の技術を開発できなければ、装備品の共同開発の中にも入れてもらえないであろう。
 技術開発力の重要性を考えれば、中長期的視野に立って武器輸出三原則の見直しを行う必要がある。

5.以上のとおり、今回の防衛計画の大綱見直しは妥当な内容であると考えられる。
 尖閣諸島における中国漁船の衝突事件は、四方を海に囲まれ、日々直接に外国の軍事的脅威にさらされることがなかった我が国にとって、一種の「黒船」効果をもたらしたのかもしれない。過剰反応は慎みつつも、5年先10年先を見据えて着実に防衛力を整備していくことも必要である。
 その上で、中国を敵視するのではなく、中国が国際社会の一員として穏当に行動するよう国際的枠組みの中で「仕向けていくこと」、そこに日本が重要な役割を担う隣国として「関与」していくこと。
 この防衛力と外交力、2つの力が、国民の主権を守るべき政府に今、強く求められている。

(注1)中国の海洋戦略の動向
 九州―沖縄―台湾―フィリピンを結ぶ「第1列島線」までの海域について、2010年までに制海権を確立し、伊豆諸島―グアム―サイパンを結ぶ「第2列島線」までの海域については、2020年までに制海権を確保することを基本的な戦略としている。
 その手段として、2014年に通常動力型空母(4万トン)、2017年に原子力空母(6万トン)、2021年に通常動力型空母(4万トン)の就航を予定しており、今年度の中国軍事予算のうち、航空母艦建造費関係だけで約5兆円の支出を計上している。

(注2)武器輸出三原則
 1967年(昭和42年)の佐藤栄作首相の衆院決算委員会における答弁により、次のような国、地域については武器の輸出を認めないこととした。

(1) 共産圏諸国
(2) 国連決議により武器の輸出が禁止されている国
(3) 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国

 1983年に後藤田官房長官の談話で、米軍向けの武器技術供与は三原則の例外とされることとなった。
 しかし、依然としてアメリカを除いて武器の共同開発は行えない。