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日本の社会をどう変えればいいのか(15)―「雇用の再分配」と「所得の再分配」の間で生まれた格差問題―

text by

小泉龍司

2011.03.08

1.前稿などで述べたとおり、高度成長期以降、我が国では「フルタイム・正規・終身雇用」の提供(完全雇用)を目指すことが可能となり、かつ専業主婦と世帯主という「男性一人稼ぎ手モデル」の下で、「家庭」において育児、両親との同居やケアなど、多くの社会保障機能を担う仕組みができ上がった。
 そして、主な社会保障機能(子育て、高齢者の所得保障やケアなど)は家庭が代替し、社会保障制度が持つ所得再分配機能は、「雇用の再分配」がこれを代替することになった。

2.「雇用の再分配」とは、雇用の創出と減少を完全なる市場原理に委ねず、規制(商店街の保護など各業界への参入規制)や補助金、あるいは公共事業の配分などの形で、特定分野の雇用を維持しあるいは拡大することを意味している。
 こうした手当てを受ける分野には、より大きな雇用吸収力が生まれ、国の基幹産業部門での生産性の向上(=人員の削減)により生み出された余剰人員を常に吸収して、人々の生活を支えた。これが「雇用の再分配」である。
 この仕組み(受け皿)があったからこそ、日本では先端分野の人員削減と生産性向上が円滑に図られたということがしばしば見落とされている。

3.他方、こうした雇用再分配の受け皿になった産業(例えば建設業や流通業など)は、相対的に大きな雇用を抱えることになり、その結果、当然産業としての生産性は、低い水準に停滞することとなる。
 こうした低生産性部門の合理化と生産性向上の必要性がしばしば指摘され、小泉構造改革も、こうした「遅れている」(とされる)部門の生産性向上をうたい、かつ現実に公共事業費の削減や地方交付税の削減を続けた。その結果、こうした部門から余剰となって外へ出された人々は、行き場を失うこととなった。

4.これを救うべき公的な社会保障制度に、しっかりとした所得再分配機能が備わっていれば、こうした人々を救う道はあったが、日本では所得再分配を主として「雇用再分配」に負ってきたため、公的制度の所得再分配機能は極めて弱いままであった。
 結局、「構造改革」の下で、社会保障制度の所得再分配機能を強化しないまま、むしろ逆に社会保障費を削減しつつ、一方で「雇用再分配」の仕組みを壊してしまったために格差問題が生じ、それがその後の政権交代にまでつながっていったのである。