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TPPには参加すべきではない

text by

小泉龍司

2011.11.07

1. TPP(環太平洋経済連携協定)は、2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国間で締結された「自由貿易協定」がベースとなっており、2010年にはアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わり、この9か国でより広域的な経済連携協定を目指す交渉が開始された。これがTPPである。
 その内容は、
 (イ)物品の関税は原則として、全品目について、即時または段階的に撤廃。
 (ロ)サービス貿易、政府調達、知的財産、金融、人の移動などの自由化も対象とする包括的な協定である。

2.これまで各国間で締結されてきた自由貿易協定(FTA)や、経済連携協定(EPA:関税撤廃だけでなく規制や制度の改定も含む)では、双方の国内事情を考慮して「例外品目」を設けることが認められてきたが、TPPでは、関税撤廃の例外が認められず、これまでのFTAやEPAよりはるかに急進的である。
 
3.TPPの参加国はアメリカを除けば外需依存度が極めて高い「小国」ばかりである。
 従って、日本からの工業製品の輸出を増やす余地は乏しく、他方、シンガポールを除き、すべての国が1次産品輸出国であり、日本への1次産品(農産物や鉱物資源)輸出を望んでいる。
 TPP参加国は日本と利害が相反する国ばかりであり、TPPのルール作り交渉の過程で、明らかに日本は少数派の側に立たされる。
 日本への農産物輸出拡大を狙うアメリカが、同じく日本への農産物輸出を求めるその他の国々を先導して多数派を形成し、日本のみが孤立する可能性が極めて高い。

4.日本の農産物への関税は、国際的に見て未だ高い水準にあるかのように見られているが、事実はそうではない。
 日本の農産物の輸入関税率は、EU―20%、韓国―62% に対して12%まで引き下げられてきている。因みにアメリカは6~7%の水準であり、アメリカは日本の関税率をこの水準以下、0%に近づく水準まで引き下げることを交渉のターゲットにしてくることは間違いない。

しかしながら、日本の農家一戸当たりの平均耕地面積は約2haであるのに対し、アメリカは200ha、オーストラリアは3000haの規模を持つ。日本の関税をこれ以上引き下げた場合、これでは全く競争にならない。

5.他方、日本の工業製品をTPP参加国は買ってくれるのであろうか。
 先に述べたとおり、アメリカを除けば各国のマーケットは小さく、これ以上輸出を増やす余地は乏しい。
 TPP交渉参加国のGDP規模を見てみると、日米両国だけで全体の9割を占めている(アメリカ67.2%+日本24.1%=91.3%)。
 従って、日本にとってもTPPのメリットがあるとすれば、アメリカ市場への工業製品の輸出を大幅に増やすことができる場合であるが、アメリカの工業製品の関税率は、トラック(25%)以外は高い水準ではなく(乗用車2.5%、テレビ5%、電気アンプ・スピーカー4.9%)、アメリカの関税撤廃によって日本の工業製品輸出を増やせる余地は、さほど大きくない。
 そもそも、円高ドル安が続く中で、日本の製造業の現地生産比率は上昇してきており、トヨタはアメリカで販売する車の6割以上を既にアメリカで現地生産している。
 現地生産している以上、アメリカの関税撤廃は競争条件に何の影響も及ぼさない。
 関税率が高いのは、むしろEUの方である(乗用車10%、薄型テレビ14%等)ことに留意する必要がある。

6.中国や、特に韓国がTPPに参加しないのはなぜだろうか。
 それは韓国がこれまで述べてきた、アメリカの戦略(アメリカが主導して1次産品輸出国の連合軍を作り、包囲する)を見抜いているからである。
 そこで韓国は、TPPではなくアメリカと二国間で交渉できる米韓FTAを選択した。

7.政府は、TPPに参加しないとアジア・太平洋地域の貿易・投資のルール作りが実質的に進んでしまう(「バスに乗り遅れる」)、と主張しているが、中国や韓国が参加せず、日本も参加しなければ、TPPはアジアにおける基本ルールにはなり得ない。「バス」は出発しないのである。

8.一度TPPに参加して、日本が例外なき関税撤廃に合意すれば、EUなどそれ以外の国々との貿易交渉において、日本は非常に不利な立場に立つことになる。
 TPPでは例外にしていない品目を、なぜ例外にするのか?と問われれば、回答は難しい。

9.以上のとおり、アメリカを含むすべてのTPP参加国は、日本の農産物市場の開放をターゲットにしている。
 現在ですら関税率が国際的に見て低く、従って農産物の輸入額が大きく食料自給率が低い日本の農産物マーケットを完全に開放すれば、日本の食料自給率の激減が現実のものとなってしまうおそれが極めて高い。

(以下、続く)