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日本の社会をどう変えればいいのか(17)―社会保障の「逆機能」について―

text by

小泉龍司

2012.03.13

連載の再開にあたって

 東日本大震災から早や1年が経ちましたが、今も約34万人以上の被災者の方々が避難生活を余儀なくされています。また、復興の大きな障害となっている瓦礫の処理も、この1年間で焼却または埋め立て処分できた瓦礫は、全体の約15分の1に過ぎません。つまりこのままの処理ペースでは、瓦礫の処理に15年の年月を要する、という厳しい状況に直面しています。
 こうした状況を踏まえ我々は、今年こそを実質的な「復興元年」にするべく、被災地に支援の手を、支援の心を届け続けていかねばなりません。私も引き続き、被災地の復興に全力で取り組んで参ります。 
 さて、一昨年から連載していた「日本の社会をどう変えればいいのか」については、昨年の東日本大震災以降、連載を休止していましたが、震災から1年が経過し、間もなく政府から「税と社会保障の一体改革」に関する法案が提出されることが予想されるため、これまで書き溜めていたものの掲載を含め、連載を再開させて頂くことに致しました。
 何卒皆様方から、ご意見、ご教示を賜りますよう、よろしくお願い致します。

日本の社会をどう変えればいいのか(17)
―社会保障の「逆機能」について―

1.社会学者の大沢真理氏が指摘した、「社会保障の逆機能」という有名な言葉がある。
 (注)
 社会保障の本来の機能は、
(イ)所得の再分配を行い、
(ロ)社会的排除をなくして社会的包摂を行う
ことである。
 「社会的排除」とは、貧困、所得格差はもちろん、言語や教養(情報)の格差、健康の不平等、市民権の壁などのために、社会のいろいろな場面に一人前のメンバーとして参加できないことを指す。
(注)大沢真理「逆機能する日本の生活保障システム」(生活経済政策、2008.5 NO.136)

2.「社会保障の逆機能」の典型例として大沢氏がまず指摘するのが、「事業主が社会保険料負担を回避するために、フルタイム雇用者を減らし、若者と女性が労働市場の内外に排除され、その結果、出生率が極度に低下しているという事実である。
 社会保険制度の存在そのものが、労働力の非正規雇用化を招いているという点である。これが、大沢氏が指摘する第一の社会保障の「逆機能」である。

3.また、社会保険料の負担が逆進性を持つために、低所得者が社会保険制度の中で大きな負担によって苦しめられ、結果として無保険者となって、社会保険制度の外へ追いやられてしまうという現実も、「逆機能」の典型として強く指摘されている。
 市町村毎に決める国民健康保険料の算定には、均等割(加入者一人当たりいくらとして算定)や平等割(一世帯当たりいくらとして算定)の部分があり、これらは加入者の所得水準には関係なく一律に負担額が決められているために、非常に逆進的である(所得水準が低くなればなる程、相対的に負担は重くなる)。
 また、所得割の部分もあるが、これも所得に対して累進的ではなく、比例的な負担(例えば所得に対して一律8.5%)であるため、所得再分配の機能は持たない。このため、国民健康保険料全体としては所得に対して逆進性を持つ。つまり、低所得者ほど相対的に負担が重くなるという結果になる。
 このように、低所得者にとっては相対的に負担が重くなるために、国民健康保険料の滞納者は増加傾向にある。滞納者については、有効期限が短い短期被保険者証に切り換えられた後、滞納が一年以上になると「被保険者資格証明書」に切り換えられ、一旦医療機関の窓口で医療費の全額を納めねばならなくなる。その結果、受診が抑制されることになる。
 近年は、年々100万世帯以上に短期被保険者証が交付され、同じく30万世帯に資格証明証が交付され、大沢氏によれば「国民皆保険はすでに有名無実なのである。」
 ここでも社会保険制度の負担の逆進性が健康保険から排除される人々を生み出しているという意味で、社会保障制度が「逆機能」を持ってしまっていると見ることができる。

4.こうした逆進性ないし「逆機能」を持つ社会保険料負担が税収を上回ることになったのが2000年である。
 バブル崩壊後の経済停滞の下で増税はできないとの判断に基づいて、政府は健康保険料などの社会保険料負担を引き上げていった。
 その結果、逆進性を持つ社会保険負担の方が税負担より大きなウエイトを占めるに至り、日本の歳入構造全体が持つ再分配機能も大きく低下することになった点に留意する必要がある。