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日本の社会をどう変えればいいのか(19)―「社会保険中心主義」を見直すことが必要―

text by

小泉龍司

2012.03.22

1.先の稿で、日本では「反貧困政策」という明確な考え方が未だ十分に確立されていない、との指摘を行った。
 それは、日本が社会保障の分野において、社会保険中心主義をとってきたことの裏返しでもある。
 基本的に社会保険は、加入者による「リスクの分散」の仕組みであり、所得再分配のための仕組みではない。
 ただ、公的年金によって現役世代から高齢者への所得移転が行われる結果、高齢者間の所得分配の格差が縮小したことは事実であり、これは現役時代の所得の水準に関係なく一律に給付される「基礎年金」によってもたらされたものであるが、その効果はあくまで高齢者に限られたものである。現役世代については、社会保険制度は何ら所得再分配効果を有していない。
 むしろ、先の稿で述べたとおり、社会保険料負担の逆進性が低所得者にとって大きな負担となっている(社会保障の逆機能)。
 日本における所得再分配機能が先進国で最低レベルであるのも、また、社会保障の逆機能と言われる状況が生まれるのも、(税の問題を別にすれば)社会保障制度の中心をなしている社会保険のこうした性格に由来する部分が極めて大きい。
 社会保険は確かに「助け合い」の仕組みではある。しかし、その助け合いに参加するメンバーとして、日本の社会保険制度が基本的に想定してきたのは、完全雇用とそこでの「フルタイム・終身・正規雇用」の人とその家族である。
 この社会保険は、皆が出し合ったものを皆で分ける、という思想によって成り立っているので、(税財源はかなり投入されているものの)基本的には保険料と給付を均衡させねばならない。
 従って、保険料を払えなかった人に給付することはできない仕組みにならざるを得ない。そこから無年金、低年金の問題、滞納による「被保険者資格証明書」の交付と窓口納付といったペナルティの問題が必然的に生じてくる。

2.日本の社会保障制度は、こうした性格を持つ社会保険制度を中心に組み立てられており、「反貧困政策」としての扶助制度は「生活保護」制度しか設けられてこなかった。
 また、麻生内閣以降開始されたいわゆる就業支援措置である「基金訓練」以前は、失業保険が切れた後、これに連動する「失業扶助」は設けられていなかった。
 また、ほとんどの先進国にはある「住宅手当て」(家賃補助)制度もない。ぎりぎりの状況に追いつめられた時、最も必要なものは住宅であるが、我が国ではそのセーフティネットが整備されていないという問題もある。

3.日本の社会保障制度の中心を担ってきた社会保険制度の外側にもう一つ、反貧困政策としての「社会扶助」制度を、国民の合意を得て、明確な概念の下に確立することがまず必要である。
 その上で、こうした社会扶助と社会保険、あるいは税制とのつなぎ目を、合理的かつ効果的に結んでいく必要がある。
 例えば、社会保険である年金(基礎年金)の水準と、扶助制度である生活保護基準の水準を、どのような関係に置けばよいのか。また、課税最低限と生活保護の水準をどのような関係に置くべきかについて、十分検討していくことが必要である。
 例えば、自ら保険料を負担した年金加入者が受け取る基礎年金が、生活保護給付を下回ることになれば、年金に加入するインセンティブは崩れてしまう。
 こうした問題については技術的な面もあるが、国民の理解を得ることのできる社会保障制度の構築という点では極めて重要なポイントであり、次稿で整理したい。