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日本の社会をどう変えればいいのか(20)―国民年金の給付水準と貧困ライン(=生活保護基準)との関係―

text by

小泉龍司

2012.03.26

1.(1)昭和33年(1958年)の社会保障審議会の答申に基づいて、翌昭和34年に国民年金法が制定され、零細業者や自営業者にも公的年金に加入する義務が生じ、「国民皆年金」が達成された。
 その昭和33年答申では、国民年金については、生活保護制度における日常的な生活費部分にあたる、生活扶助基準を目標として給付額を設定することが示された。
 つまり、国民年金の給付水準は制度のスタート時点では、明確に生活保護制度とリンクしていたのだ。
 その後、毎年改訂される生活保護基準が、一般生活水準の向上に連動する「格差縮小方式」により引き上げられる一方、国民年金の給付水準の方は、5年に一度の財政再計算時に改訂されるに留まっていたため、次第に生活保護基準>年金給付の水準、という状況に陥ることとなった。

(2)昭和48年(1973年)は田中総理の下、「福祉元年」と呼ばれ、年金給付が大幅に拡充され、その結果、満額の国民年金を夫婦で受給すると、平均賃金の70%近くに達するという、非常に高い給付水準が設定された。

(3)昭和60年(1985年)の法改正により、厚生年金の定額部分と国民年金の一元化が行われるとともに、当時の人口推計から急速な高齢化がはっきりと認識され、年金の給付水準の引き下げが行われた。
 野党は、基礎年金>生活保護基準の関係を維持するように求めたが、政府は、基礎年金≒生活保護基準の関係は妥当であり、かつ各種統計において、単身高齢者の食費、光熱費、被服費等の基礎的支出が、ほぼ基礎年金額(5万円)に見合っていることを根拠として示した。
 85年以降は、実際には次のような姿になった。

 基礎年金>生活保護基準(夫婦世帯の場合)
 基礎年金<生活保護基準(単身世帯の場合)

(注)単身者の基礎年金額は、夫婦世帯のちょうど半分になるが、単身者の必要な生活費は(各世帯においてどうしても必要な支出があるため)夫婦世帯の半分よりも大きくなるため、上記のような結果になる。

(4)2004年改正で、年金にマクロ経済スライドが導入され、平均寿命の伸びや出生率の低下により、給付水準は引き下げられることになった。名目額が下がってしまう場合は調整が行われない。物価スライドにより給付額が伸びる時に、その伸びしろを圧縮する方式であるため、デフレ下で実際には発動されていない。
 他方で、2004年から生活保護基準の老齢加算が段階的に引き下げられ、2006年に撤廃。その結果、
基礎年金≒生活保護基準(単身世帯)
 つまり、生活保護基準が引き下げられることにより、両者の差が埋められることになった。

2.以上見たとおり、
①基礎年金の水準は、制度創設当初から生活扶助基準を意識して設定され、
②現実にもおおむね
 基礎年金≧生活保護
 の水準が維持されてきた。
③ただし、政府の公式見解においては、「基礎年金で老後生活のすべてを賄うのは無理であり、その考えはとっていない。」(1984年、衆・厚労委員会、年金局長答弁)と述べ、「食費を中心として老後生活の基礎的な部分を保障するもの」との説明を行っている。
 このように、政府の公式見解によれば、基礎年金は最低生活費ないし「貧困ライン」としての性格はあいまいである。
 また、民主党の年金改革の議論で「最低保障年金」なるものが提唱されているが、これは最低生活費用を賄うために、高齢者については、生活保護ではなく最低保障年金を適用する、という考え方に立脚し、生活保護基準とのリンクを目指すことを意味しているのか、(あるいは全額税方式をとることにより、無年金・低年金者をなくす、という意味での「最低保障」なのか)いずれにせよ、議論を始める前にその定義を明らかにすることが求められる。

3.税制上の課税最低限と貧困ライン(生活保護基準との関係)

 生活保護基準に次いで社会保障制度の運用に大きな影響を及ぼすのは、課税最低限度額である。
 これは、福祉サービス利用の自己負担分や保険料減免の際の「低所得者」を決める根拠として多用されている。
 課税最低限は、課税所得計算上の基礎的人的控除(基礎控除、配偶者控除、扶養者控除)、給与所得控除及び社会保険料控除の総計である。
 つまり、これらそれぞれの理由で設けられている諸控除を足し合わせただけのものであり、全体としての最低生活ラインを導く、という考え方の下に算出されたものではない。
 ましてや、社会保障制度運用上の「低所得」ラインとして活用されることを想定して定められたものではない。
 子ども手当ての導入に伴って年少扶養者控除が本年から廃止されたため、当然、課税最低限=「低所得」の水準も下がってしまうという問題が生じている。
 税と社会保障の一体改革においては、この問題についても十分議論し、国民が納得できる「結び目」を作ることがどうしても必要となる。