文字サイズ: 小 中 大

日本の社会をどう変えればいいのか(24)―デフレの原因は何か(人口動態というもう1つの構造変化)―

text by

小泉龍司

2012.04.23

1.バブル崩壊後の経済の停滞は、はじめ「失われた10年」と呼ばれたが、いつしかそれは「失われた20年」と言われるようになり、2008年のリーマンショックを経て、現在も物価の下落と経済の停滞は続いている。
 この間、90年代には、公共事業の大盤振る舞いと、2000年代以降は小泉内閣の下での構造改革政策・・・主として規制緩和及び日銀による金融の「量的緩和」が行われたが、経済の基調に大きな変化は現れなかった。
 1980年代には、4~5%であった経済成長率は、90年代以降1%台となり、戦後最長の景気回復と言われた小泉政権時代の成長率も2%止まり、しかも、それは専ら輸出の好調(年平均10%の伸び)によりもたらされたものであった。

2.従来の財政(出動)政策が効かない。金融緩和政策も効かない。
 どうもこれは景気循環的なものではなさそうだ。だから、経済の「構造」を変えねばならない、ということで打ち出された小泉「構造改革」によっても、デフレの壁を打ち破ることはできなかった。

3.日本のデフレ(物価下落)には特徴がある。
 電気製品などの価格の継続的下落と、サービス価格が上昇せず横ばいで推移することにより、全体としての物価が下がっていくという形の物価下落が続いている。
 これに比し主要先進国では、サービス価格は年平均2~3%の伸びを示しており、これにより全体の物価が上昇している。
 なぜ、日本のサービス価格は上がらないのか。
 これについては次の見方が提示されている。
 サービス価格は、サービス労働に対する対価(人件費)が大きなウエイトを占める。そのサービス労働者の人件費は、新興国との交易の活発化により(サービスが直接貿易取引されるわけではないが)、間接的に引き下げ圧力を受けている。これは他の先進国も同じである。
 しかるに、日本の場合、2000年代に入り輸出が大きく伸びる中で円高となり、加えて中国の為替管理政策及びアメリカのドル安政策の圧力を受けて、円が恒常的に高止まりしていたため、新興国からの人件費引き下げ圧力を為替レートの変更(円安)で吸収できず、結果としてサービス価格の下落が起こった、という考え方である。
 新興国の人件費水準の低さにより、日本の輸出製造業の人件費への引き下げ圧力は直接的な形で生じるが、貿易取引されないサービス業でも同様の力が働いたとする見方である。まだ定説にはなっていないが、一つの有力な見方であると考えられる。

4.しかし、こうした海外要因に比し、より強く働いた国内要因があるとの見方が強まっている。
 それが、人口減少、特に生産し消費もする現役世代人口の減少がもたらす需要不足である。
 長らく、経済学の世界でも政治の世界でも、経済を動かすのは「お金」であると考えられてきた。財政も金融も「お金」の世界である。しかし、「お金」を使うのは「人」である。「人」がいなければ「お金」は動かない。
 過疎の村を考えてみて頂きたい。人口が減れば、それに伴って村は寂れていく。お金を使う人が減れば、それを役場や信用金庫の支店が代替することはできない。
 国全体についても同じことが言えるのではないか。
 そうした新しい視点に立ってデフレの原因を分析したのが、藻谷浩介氏の「デフレの正体」という著作である。みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏も、同様の考え方を表明している。

5.藻谷氏によれば、この考え方を発表した当初は、伝統的な経済学者から猛烈な批判を受けたとのことであるが、最近では次第にこの説が受け入れられ始めている。
 現役世代(生産年齢人口15~64歳)の人口がピークであった1995年に、日本の国内総生産もピークをつけ、以後、各目GDPの規模は縮小してきている。藻谷氏によれば、この間景気の変動は見られたが、それにかかわらず住宅、車、書籍の販売数、物流の総キロトン数、国民一人当たりの摂取酒量やたんぱく質量など、国民経済の基礎代謝量は一貫して低下し続けている。
 2005年をピークとして総人口の減少も始まったことにより、需要の将来見通しについても抑制がかかる。

6.他方で生産能力については、機械設備の量や情報システムの質が、人口減少によって減少ないし低下するわけではないから、生産能力は減退しない。その結果、需要不足(供給過剰)がなかなか解消できず、物価の下落(デフレ)が生じる。循環的な景気変動であれば、不況になって金利が下がれば企業は投資を増やし、また、政府が財政出動すれば一定の波及効果があった。しかし、そうした当たり前と考えてきた経済の仕組みは、人口が増加する(少なくとも人口が減少しない)経済マーケットが前提になっていた可能性がある。
 我々は未知の領域に踏み込んだのかもしれない。人口が減少するというのは、約6万年前にアフリカを出立した現人類の先祖、ホモ・サピエンスが、4~5万年前にこの日本列島に足を踏み入れて以降、初めての現象である。しかも、現役世代人口はこのままでは今後100年間で4分の1近くまで減少する(約8000万人→約2300万人)。
 こうした「構造変化」は、先に述べた中産階級の没落という社会構造の変化とともに、現代日本政治の視野には未だ十分入っていない。