今回の参議院選挙においては、「年金問題」が大きな争点となっています。
世論調査によれば、今回の年金改革法案を評価しないという方が70%以上に上っています。
この問題について、私は次のように考えます。
1.年金改革法に関する問題点
年金改革法に対する国民の皆様のご不満とご批判については、次の三つの点に問題を分けて考える必要があると思います。
- 年金改革法の審議過程についての問題点
与党による強行採決。民主党による審議拒否。与党・民主党による三党合意。
- 年金改革法の内容についての問題点
政府により十分な説明責任が果たされていないという問題点。合計特殊出生率1.29%という数字が法律成立後に公表されたこと。給付が減少し、負担が増加すること。
- 年金改革法に付随する問題点
国会議員の年金未納問題。総理の「人生いろいろ」発言。社会保険庁の腐敗と怠慢。議員年金の問題。
2.年金改革法の審議過程についての問題点
少子高齢化が進む中で、方向としてはどうしても国民の方々に給付の削減と負担の増加をお願いしなければならないという状況である以上、強行採決は絶対に避け、秋の臨時国会まで審議期間を延ばし、十分な議論とそれに基づく法案修正を行うべきであったと考えます。
民主党については、次のような問題がありました。
通常国会において対案の提出が間に合わず、それが出来上がるまでは審議拒否を行いました。その後も必ずしも委員会に出席することなく、とにかく審議を遅らせたい、という行動に終始していたことは事実です。
法案が衆議院を通過するにあたっては、「今後、年金の一元化について協議を行う」旨の与野党による三党合意が結ばれ、これに基づいて、衆議院本会議において民主党は年金法案について賛成しました。その後、民主党の党首選が行われた後、民主党の立場は180度変わり、三党合意を無視して審議拒否を繰り返すことになりました。
このように、与野党ともに国民に対して審議を尽くすという立場をとることなく、国会議事堂の中だけで争ったという点は、どちらも政治のあり方として大き誤りを犯したと考えます。
ただし、政権運営にあたる政府、与党は、国民に対し十分な説明と審議を尽くす、より大きな責任を負っていたと思います。当然与党の側により重い責任があります。
3.年金改革法の内容についての問題点
政府案の考え方は・・
- 刻一刻と少子高齢化が進む中で、年金制度を破綻させるわけにはいかないという点。
- もしも年金制度が破綻することとなれば、貧しい方々ほど大きなダメージを受けるという点。
・・という二つの点に立脚するものです。
年金には現在でも税が一部投入されていますので、国民年金と厚生年金のいずれについても、国民一人が納付した保険料の総額の1.5〜2倍以上の給付が受けられる仕組みになっています。お金持ちはこうした年金の仕組みに頼らなくても十分な老後の資金を蓄えておくことができます。
しかし、多くの一般の国民にとって、この年金の仕組みは老後の生活を支える「生命線」です。したがって、少子高齢化が急速に進む今後20年間程度をなんとか乗り切り、年金制度を破綻させずに維持することが国政の最重要課題です。
政府与党が今回法律の成立を急いだ背景には、こうした考え方と事情があります。
政府の年金改革法は約1000ページあまりの法律ですが、民主党が出してきた法案は約20ページでありました。そこには具体的な数字や仕組みは何も書いてありません。要するに、国民年金、厚生年金、共済年金を一元化して共通の制度を作ること、国民負担の増加は消費税の増税により行うこと、などの基本的な考え方が書いてあるだけです。そして、年金制度改革の成案を5年間かけて作り上げるという内容になっています。
民主党案のように、議論に5年間もかけているうちに、年金財政は約8兆円赤字が増え、その後の国民負担はより大きなものになります。また、国民年金を厚生年金と同じような報酬比例の形に改めようとすると、自営業者の方々の負担は相当重くなり、また、自営業者の方々の所得を補足するために「納税者番号制度」を導入しなければならなくなります。
与党案と民主党案を大きな視点から比較してみると、次のようになります。
年金制度は、入口(国民の負担)→ 制度の仕組み →出口(国民への給付)という三つの要素により成り立っています。
- まず、出口(給付)については、与党も民主党もともに「概ね現役世代の50%程度の給付」を目標とする、という考え方に立っており(民主党案の詳細は先に述べたように明らかにされていませんが)、ほぼ同じ考え方です。
- 制度の仕組みについては、まず法改正を行ってから一元化を考えるか(政府案)、5年間掛けて一元化を試みてから給付と負担を決めるか、という違いはありますが、一元化が望ましいという点では共通しています。
- 最も異なる点は、入口、国民の負担のあり方です。
- 政府案は、社会保険料の増額という形で、働いて所得のある方にがんばって支えてもらいたい、という考え方であり、民主党案は、お年寄りも、また所得のない方も含めて、消費税の増税により国民に負担してもらうという考え方です。これについては議論の余地はあると思いますが、今後医療や介護についても国民負担が増加する可能性があり、政府与党としては消費税を増税して年金だけに注ぎ込むことはできない、という考え方をとりました。社会保険料の増額が働く世代にとって、大きな負担になることは否定できませんが、他方で、お年寄りや貧しい方々に消費税の増税を課することには大きな痛みが伴うことになります。
- また、政府案では、今後13年かけて、約2.4%(被用者、雇用者それぞれ)の増額がなされる形になります。
他方、民主党が言うように、消費税の増税でこれを賄い、かつ基礎年金部分全額を税で賄うという形をとる場合、現行の消費税率5%は12%程度まで引き上げられることとなります。民主党は、この点を全く説明していないという点が、大きな問題として指摘されています。
繰り返しになりますが、国民経済全体が豊かになる中で、「なぜ年金制度が必要なのか」という点に立ち返る必要があると思います。豊かな老後を賄うことのできる資産の蓄積を現役時代に果たせる人はよいのです。しかし、様々な状況の下で、それが果たせない方々が国民の多くの割合を占めている以上、老後の生活のセーフティーネットとしての年金制度は絶対に破綻させてはなりません。年金制度とは、国というものが存在することの根幹に関わるものです。
そしてもうひとつ、入口と出口の間にある制度を「抜本的に改革し、一元化を成し遂げた」としても、そこには決して新しい財源は生まれてきません。マジックは効かないのです。入口で頂いた保険料または税しか、出口から給付として出せません。この当たり前の事実を、苦しいことではありますが、直視しなければならないと思います。
「一元化」「抜本改革」といったきれいな言葉だけに議論が流れてしまうと、年金制度を維持しなければならないという政策課題から、国民の目がそらされてしまう惧れがあると、私は思っています。
4.年金改革法に付随する問題点
今回の年金改革法の審議過程では、様々な問題が噴出しました。
- 国会議員の年金未納問題
多くの国会議員の年金未納問題が指摘されましたが、これは、国会議員と一般の方々の「生活感覚」の違いを如実に表すものであると思います。
当然、国民の皆様の批判を受けて然るべきです。
もう一つ問題があります。それは、社会保険庁の怠慢です。制度を維持することが如何に大事かは先に述べましたが、そのためには、公平に保険料を徴収する真剣な努力が、社会保険庁に対して求められます。その責務が果たされていなかったことも、未納問題の一つの背景となっていると思います。
国会議員も社会保険庁もこうした責任の欠如を認め、広く国民に謝罪する姿勢が必要であったと思います。自民党が未納議員を党として公表しなかったことにも、大きな問題があったと思います。
尚、私は、平成8年4月に旧大蔵省を退官後今日まで、年金を完納致しております。 - 社会保険庁の問題に触れましたが、社会保険庁によるずさんな年金資金運用(グリーンピアなど保養施設への投資と巨額な損失)や、社会保険庁内部の様々な腐敗について、徹底的に洗い出し、責任を追及し、けじめをつけさせることが、制度改正の大きな前提であると思います。
新たに社会保険庁長官に民間人が起用されることとなりましたが、厚生官僚による年金制度の私物化を徹底的に排除する必要があります。
国民の皆さんの年金改革法への反発の背景には、社会保険庁の問題が大きな比重を占めていると思います。 - 国会議員の年金について
議員年金については、私は、廃止するべきであると考えます。
かつて、野党の国会議員の方が議員を辞職後、翌日から生活保護を受けることになったという事例があり、それを契機として議員年金が導入されたという経緯があります。しかし、現在の我が国の経済状況の下で、また周りを見渡してみても、国会議員が辞職した後に生活保護を受けることになるという事態は想定できません。時代の状況が大きく変わる中で、議員年金の必要性はなくなったと思います。
また、厳しい財政運営の中で、国民の皆様に負担を強いる政策を実行していくことが政治に求められています。そうした状況において、当然政治家は国民と同じ制度の下に生きるべきです。そうでなければ、政治のリーダーシップは生まれてきません。
5.まとめ
以上述べたような年金制度改正に関するさまざまな問題点について、十分に議論を尽くし、責任の所在を糺し、国民の方々に謝罪をし、その上で、年金制度を存続させていく必要性について理解を求めていく,という取り組みがどうしても必要であったと思います。
それには通常国会後半の数ヶ月という期間は、あまりに短か過ぎたと思います。今回の参議院選挙を通じ、またその後の国会の夏休み通じ、全国会議員が有権者と対話を繰り返し、その内容を秋の臨時国会に持ち寄って、さらに国民的議論を深めることが正しい取り組みであったと思います。
何故ならば、年金制度というものは社会保険であり、社会保険という仕組みの真髄は、各々の方が自分の老後はどうなるかわからないという不安を持つ中で、共にその不安を共有し、共に助け合っていこうという意思を国民が共有すること———そのことに、制度の根幹があるからです。
国民の方々にその意思を持って頂かない限り、一元化を含めて、制度をどう改革しようと、年金制度を維持することはできなくなると思うからです。
年金制度改革は、国民の意思に直接訴えかける、そして、十分な理解をして頂いた上でその意思を持って頂くことに本質があるにも関わらず、このことを政治が、なかんずく政府与党が見落としていたという点に、最も大きな問題があったと考えます。


