1.訪中のきっかけ
去る8月24日からの3日間、前保守党党首・(現自民党)野田毅衆議院議員のお誘いを受けて、8名の国会議員団の一員として、北京を訪問致しました。
初当選以来、初めての海外出張です。
野田毅先生は自民党の中では有数の中国通であり、日中関係が必ずしも良好ではないという現在の状況の中で、我々若手議員に日中関係にもっと目を向けてもらいたい、また中国政府の幹部と人脈を作ってもらいたい、とのご配慮をもって、1・2回生の有志に声をかけて下さいました。
3日間の滞在中、胡錦濤国家主席にもお会いできる段取りではありましたが、ちょうど「全国人民代表者会議」(日本の国会に当たるもの)が開催されていたため、今回はお会いすることができませんでした。唐家璇副総理(前外務大臣)、路甬祥科学院院長(大臣)、中国共産党幹部、また中日友好協会幹部等、幅広い中国の指導者の方々とお会いすることができました。以下、関連する情報も含めて、現在の中国の状況について、私が感じ取ったことをご報告致します。
2.現在の日中関係とは
現在の日中関係について、当初、大変不思議な思いが致しました。北京に到着して始めに感じたのは、関係者が「小泉」という名前に過敏に反応し、警戒心を持っていたということです。それだけ、小泉総理の靖国神社参拝問題に対する批判が強いという状況でありました。名刺を渡してくれない人もいました。完全に総理の親戚だと思われていたようです。
中日友好協会幹部との懇談の中で、元周恩来首相の秘書兼通訳を務めていた王效賢協会副会長の話を聞きました。王副会長の話は次のようなものでした。(周恩来首相と田中角栄総理が日中国交回復の交渉をする際、彼女が通訳に当たりました。)
中国国民には、日中戦争で日本軍が二千万人の中国国民を殺したということに対する強い感情論がある。
しかし、周恩来首相は、日本国政府と日本国民を明確に分け、日本国民は被害者であると述べた。「過去のことを決して忘れることなく、今後の戒めとする」と田中総理に述べた。周恩来首相は過去の戦争の責任をとことん追及することはなかった。また、日本国民の利益を考え、賠償請求をした。その上で、日中戦争の責任を、当時中国にいた4人の軍司令官(A級戦犯)に負わせることにした。この4人のA級戦犯は、当初靖国神社に祭られてはいなかったが、昭和53年に靖国神社に祭られることになった。こうした経緯の下で、中国政府は、日本国民が靖国神社に参拝すること、また現職国会議員が参拝することについては、何も言っていない。ただ、現職総理と外務大臣、そして官房長官だけは、在任中は控えてもらいたいと言っている。
周恩来首相と田中角栄総理、またその後の大勢の日中の関係者の努力の上に、過去の戦争を乗り越えて、日中関係を発展させていこうという道が開かれてきたにもかかわらず、小泉総理はその努力を無にするような靖国神社参拝を繰り返している。アジアカップ決勝戦の時に中国の観客が騒いだことについては問題があったと思うが、背景にはそうした中国国民の感情がある。中国政府としてもこれを見過ごせば、国民から、何をやっているのだ、と強硬な突き上げを受けることになる。日本の方々に是非、この点を理解してもらいたい。
確かに小泉総理は、総理大臣になる前は、国会議員としての靖国神社公式参拝を毎年行っていたわけではありません。また、日本国総理はアジアのリーダーでもある、リーダーであらねばならないという点を考えると、総理に中国への配慮を求めることが必要であると考えられます。
では、何故小泉総理が靖国神社参拝にこだわるのか。三つの要因が考えられます。
- A級戦犯も、亡くなれば一人の魂として他の英霊と同じではないかという思い。(小泉総理は現にそういう発言をされている)
- 自民党総裁選を戦う過程で、遺族会の方々の支持を取りつけたかったのではないか、という見方が自民党内にはかなりある。
- アメリカの支持を取りつけるために参拝を続けているという見方もある。アメリカが最も恐れることは、アジアが今後大きく経済発展していく中で、日本と中国が親しく絆を結ぶことである。アメリカはそれを最も恐れていると考えられる。総理が靖国神社参拝を続けることは、その米国の不安を最も明確な形で払拭する結果となる。中国が怒れば怒るほど、アメリカは小泉総理を信頼していくことになる。
総理の頭の中にはこうした三つの考えがあり、靖国神社参拝を続けていると考えられます。特に小泉総理が、総理になる前から靖国参拝を続けていたわけではないという点を考えると、(2) と (3) の要素がかなりあるのではないかと推測されます。
先の戦争で亡くなられた英霊に対し、心から哀悼の誠を捧げることは、日本国の政治家として最も基本的な思いである、という点がまず原点になければなりません。
しかし、他方、もしアメリカへの配慮という考えがそこにあるとすれば、それは改めていかなければならないと思います。
自国の本土で外国軍隊が民間人を殺傷するという経験を、我が国は、沖縄戦を除けば、有史以来経験したことがありません。日中戦争が、もし我が国の国内で行われたということを想像してみると、戦後60年足らずの時間の経過の中で、その生の感情を消してしまうということは不可能に近いのではないかと思われます。
我が国の英霊に思いを致すとともに、他方で、アジアのリーダーとしての小泉総理は、中国国民のこの感情に配慮する必要がないと言い切ることはできません。
様々な議論がありますが、私は、人間としてのあり方の問題として、ここに小泉総理が見落としている点があるように感じます。
戦争の悲惨さを実体験していない現在の我々の世代は、やはり深く戦争に関わった諸国の国民の生の感情を理解し、その上に我が国及びアジア諸国に対するリーダーシップを築いていくことが必要であると考えます。
他方、中国政府の対応については、自民党内には次のような見方もあります。
田中総理がもし、中国政府による賠償請求放棄を受け入れず、賠償金の支払いを行っていたならば、今日、中国政府から様々な批判を受けることは今日なかったのではないか。賠償請求放棄は、中国側の戦略である、それによって我が国は「負い目」を負った。その中で、中国に対する毎年約一千億の円借款が約30年間(約3兆円)継続されてきている。そういう意味で中国政府の戦略にはまったのではないか、という人もいます。(借款であるから、もちろん返済はなされることになります。)ちなみに大規模な上海空港の総工費、二千億円の内、約五百億円は日本からの円借款で賄われています。こうした見方も、外交というものを読み切るひとつのストーリーではあろうと思います。
しかし、私は、外交というものの枠外かもしれませんが、その最も根源に、自国であれ、他国であれ、一人一人の国民に対する思い、すなわち政治家としての生の感情がなければ、本当の外交上の説得力を持ち得ないし、外交上の駆け引きもなし得ないのではないかと感じています。大変甘い考え方であるかもしれませんが、政治のリーダーシップというものは、少なくとも21世紀においては、そのように形成されていくのではないかと考えています。
日中関係に深く関わる国会議員の数は、そう多くはありません。特に若手議員の中で、中国との関係に深く乗り込んでいこうという議員は数えるほどしかいません。野田毅先生から強く勧められたこともありますが、今回の経験を生かすためにも、年に一度は中国に行き、年に一度は中国から来てもらい、アジアについて考える基点として、中国という国を我が国の国益の観点から深く見極めていきたいと考えています。
3.中国とはどういう国か
中国とはどういう国か。北京に駐在する阿南大使と二度、懇談の場がありました。その中で私は、最も知りたかった質問をぶつけてみました。
アメリカには、中国に対して二つの見方がある。
中国が経済発展を遂げ、豊かになっていけば、やがては旧・西側先進国のような民主国家になっていくというのが、米国・民主党の考え方である。他方、現在12億という人口が50年後には17億人に膨張していくことを考えると、やがて国としての統制が取れなくなり、中国はまた元の強権的な軍事国家に戻ってしまうと米国・共和党は考えている。従って、現ブッシュ政権もそうであるが、台湾防衛のためのてこ入れを怠らない。中国はどういう国になっていくのか。既に共産主義という概念は踏み越えてしまっていて、経済は市場を中心に回り始めている。中国共産党の綱領も改訂され、労働者の代表ではなく、企業経営者も含めた全国民の代表であると宣言している。中国はどうなっていくのか。阿南大使自身の考えを伺いたい。
これに対して、阿南大使は、うーん、難問である、という感じでありましたが、次のように述べられました。
確かに現時点では、二つの道筋があり得ると思う。しかし、もし昔の中国に戻るということを想定した場合、台湾との戦争、難民問題等、日本も大きな困難に巻き込まれていく。従ってそのような道筋を想定したくはない。中国共産党も何とかその道を避けたいと苦慮している。私は中国政府にいつもそのような観点からアドバイスを繰り返している。
別の機会に次のような話を聞きました。
中国は一人っ子政策を採っている。しかし、実際には二人目の子供が生まれることも多く、その場合には、母親が子供を連れて一度地方の農村部に行き、そこで捨て子を拾ってきたとして、都市部に戻ってくる。そうするとその子供を育てることはできるが、戸籍がないために学校にも行けないし、従って就職することもできない。都市部にはそうした非市民の扱いを受けている子供、成人している場合には30歳ぐらいの年齢に達している人たちが、一千万人とも二千万人いるとも言われている。彼等の年齢がより高くなり、更に数が増えていった段階で必ず暴動が起きる。中国政府はそうした大きなエネルギーを秘めた集団が存在することを大変恐れている。
確かに、中国共産党幹部と懇談した際、共産党員は6300万人いるが、中国共産党は政権を失うことを大変恐れている、との発言がありました。彼等は今、自分たちが倒した国民党政権が何故政権を失ったのかということを、もう一度真剣に学んでいると述べていました。
現在中国政府は、汚職などの腐敗の徹底排除、国民に法律遵守の意識を持たせること、この二つに大きな力を入れています。また、12億人の国民の内、約7億人を占める農村地区の貧困対策に大きな重点を置いています。社会の安定を何よりも重視しなければならない状況に置かれているのです。
中国政府の発表によれば、持てるものと持たざる者の差が広がってきており、政府の統計によれば、都市部のみの計数ですが、トップ10%の層が国富の25%を占有しており、トップ20%の層が国富の40%を占有しているとのことです。米国ではトップ1%が国富の40%を占有しています。その格差の大きさから見ればまだ小さいですが、農村部も含めて考える必要があり、また中国政府の統計の精度を考えれば、社会的に大きな問題になりつつあるということは否定できません。
4.中国の指導者像
こうした状況の下で、現在の胡錦濤国家主席—温家宝総理の体制は、透明性が高い、大衆重視、そして実務重視の政権になっています(阿南大使)。余談になりますが、胡錦濤主席は明の時代からの地方の王族の45代目の直系であり、祖先は日本の室町時代に中国沿岸を略奪した倭寇を撃退した英雄でありました。祖先の中には、科挙制度の下で大臣にまで上りつめた家系もあります。胡錦濤主席本人は工学部出身で、大学卒業後、30代後半までダムの工事現場で監督指揮を行っていたそうです。当時、文化大革命の影響で、将来の指導者となるべき人材が枯渇し、30代から40代の指導者の候補となるべき人材が北京に集められました。胡錦濤も温家宝もその時に北京に招集されました。その後、胡耀邦に取り立てられ、昇格していきましたが、胡耀邦失脚時、多くの幹部が胡耀邦との関係を否定する中で、胡錦濤主席だけは、胡耀邦は自分の恩人であると言い続けたと言われています。鄧小平国家主席が胡錦涛の一貫したその姿勢を評価し、以後鄧小平に引き上げられていったという人であります。
細部は正確ではないかもしれませんが、中国は「科挙」の伝統の中で優秀な人材を発掘し、これを育てていくというシステムが徹底しているように感じられます。我々が面会した唐家璇副総理も、元々は中日友好協会の日本語通訳でありました。こうした中国の指導者層育成システムは、他に様々な要素もあるでしょうが、大局として機能しており、そこに中国という国の脅威を強く感じざるを得ません。
5.まとめ
以上、あまり十分な整理ができないまま、私が今回の中国出張で認識し、感じたことの概略を述べさせて頂きました。
まだまだ断片的な知識情報ではありますが、日本という国を他の国に照らしながら大局的に考える極めて貴重な機会であったと思います。
これを機会に、日本の隣国である中国、そしてその対岸にある隣国アメリカの動向を十分に視野に入れていきたいと思います。何故ならば、日本の国益にとって最大の懸念は、一夜明けてみたらアメリカと中国が手を結んでいたという状況であるからです。
皆様方の支えにより、中国出張に出させて頂いたことに深く感謝しつつ、取り急ぎ、出張ご報告申し上げる次第です。


